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~家庭における食料危機対策支援ブログ~

食料危機対策の必要性(8)複合災害により食料危機リスクは高まる

みなさん、こんにちは。
首都圏直下地震南海トラフ巨大地震では、東日本大震災以上の人的・経済的被害が想定されています。そのとき食料供給にはどういう影響がでるのでしょうか。被災直後だけではなく長期での影響、さらに、複数の災害が重なる複合災害となった場合の影響についても気になるところです。ここでは地震被害のケースを中心にその影響をみてみましょう。


◇各種食料備蓄 常温保存可能・賞味(消費)期限が長い・調理が容易なことが重要。


・政府被害想定による飲料水・食料への影響
政府により発表されている南海トラフ巨大地震と首都圏直下地震の被害想定では、飲料水・食料等の物資についての影響も想定されています。

また、被害想定では想定被災地域に大都市圏を抱えていることもあり、被害の様相に共通の想定が多くあります。その共通点は、以下の通りです*1*2


地震発生直後 公的・家庭内の備蓄(食料や飲料水)が大幅に不足し、被災地域の内外で買い占めが発生します。

○概ね1日後~数日後 食料は大幅に不足し、全国的にも被災地支援や自らの必要量以上を備蓄するための買い占めが発生します。また、支援物資の被災地への搬入に起因する道路渋滞や被災による道路寸断により、被災地外からの支援物資の配送が困難となります。小売店では、被災を逃れた被災地内外の大型小売店等では営業を継続されるものの、小型小売店等では被災により開店できなくなります。

○概ね1週間後 飲食料品の製造工場だけではなく、農産物の生産地や包装材等の工場の被災するため、食料などの生産・供給困難となります。さらに、交通インフラ復旧後も、トラック燃料の不足から、物資の調達・配送が困難となります。

○さらに厳しい被害様相 商品の輸送が十分に行えない状態が長期化することで、飲料水・食料や医薬品などの不足で著しく体調を崩す人が多数に上ります。


このような政府の被害想定は、東日本大震災阪神・淡路大震災の状況を踏まえて想定されたものです。しかし、東日本大震災阪神・淡路大震災と、今後想定される南海トラフ巨大地震や首都圏直下地震では、後者の方が圧倒的に想定被災地域の人口が多く、「さらに厳しい被害様相」を前提とした対策が必要になると考えられます。

・長期的な経済被害による食料危機の発生
南海トラフ巨大地震と首都圏直下地震における被害想定については、政府以外からも発表されています。土木学会からは、2018年に「「国難」がもたらす巨大災害対策についての技術検討報告書」*3が発表されており、同報告書では、政府の被害想定にはない中長期的に継続する被害も考慮して経済的損害額を算定しています。地震津波被害(南海トラフ地震・首都直下地震)については、阪神・淡路大震災では経済被害(GDPの毀損)が20年に渡り影響したことから、20年累計として経済被害を南海トラフ地震1,240兆円・首都直下地震731兆円、財政的被害を南海トラフ地震131兆円・首都直下地震77兆円と推計しています*4

また、南海トラフ地震は、地震発生1年後にGDPを11.1%減少させると、研究者によって推定されています。GDP減少額の内訳は、地震津波による直接的影響0.5%に対してサプライチェーンの途絶による間接的影響が10.6%となっており、間接的影響が大部分を占めています*5

このように巨大地震は長期に渡り経済的低迷をもたらします。これは結果的に日本の食料購買力の低下をもたらすと考えられます。食料購買力の低下が著しいようであれば、気候変動などにより世界的に食料価格が高騰した場合に、食料危機を引き起こす可能性が高まります。

・複合災害による食料危機リスクの増大

過去の地震や噴火などの事例からは、同種あるいは異種の災害が同時または時間差をもって発生する複合災害*6が度々発生していることが分かります。

■複合災害の事例

南海トラフ地震

このような地震や噴火などによる複合災害は、単独の地震・噴火と異なり具体的な被害想定作成や対策は遅れているのが現状です。2021年3月に富士山火山防災対策協議会から発表された「富士山火山避難基本計画」には、巨大地震後に富士山噴火するケースなどでの複合災害を想定した避難計画を検討することが記載されています*8。同年5月には事前防災・複合災害ワーキンググループから、政府に対して「事前防災・複合災害ワーキンググループ提言」が提出されています*9

さらに、2023年に火災予防審議会から、東京都に対して複合災害のストーリーシミュレーション結果も含む「地震時における災害の複合化を考慮した消防防災対策の在り方」が答申されています*10。しかし、国としての対応はこれからといった状況のようです。

また、単独の地震・噴火の被害想定はあっても、連動して発生する過酷事象は除外されていることが多い状況です。南海トラフ巨大地震の想定では、原子力事故については触れられていません*11。首都圏直下地震の想定では、海抜ゼロメートル地帯での浸水、コンビナートでの大規模火災といった過酷事象はリスクとしての認識はありますが、想定の対象とはされていません*12

このように、複合災害の被害については、被害想定も不十分であり未知の要素が多いのが現状です。しかし、複合被害は、単独災害より被害が大規模化・長期化しやすく、食料危機リスクを高めるといえます。

例えば、東日本大震災では巨大地震津波により大規模な原子力事故も含む複合災害となり、国内の食料供給にも大きな影響が出ました。これにより放射性物質で汚染された食品の出荷が制限され、燃料不足・計画停電で生産・物流が滞ったこともあり食品の品薄が長引きました*13原子力事故がもっと大規模であれば、長期の食料危機に発展した可能性もありました。


【参考文献】
*1  南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ(2013)「南海トラフ巨大地震の被害想定について(第二次報告)~施設等の被害~【被害の様相】」, 58~59頁,
   https://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/taisaku_wg/pdf/20130318_shiryo2_1.pdf
   (アクセス日2024年2月9日)
*2  首都直下地震対策検討ワーキンググループ(2013)「首都直下地震の被害想定と対策について(最終報告)~施設等の被害の様相~」, 59-60頁,
   https://www.bousai.go.jp/jishin/syuto/taisaku_wg/pdf/syuto_wg_siryo02.pdf
   (アクセス日2024年2月9日)
*3  土木学会(2018)「『国難』がもたらす巨大災害対策についての技術検討報告書」,
   https://committees.jsce.or.jp/chair/node/21
   (アクセス日2024年2月9日)
*4  土木学会(2018)「本編_「国難」がもたらす巨大災害対策についての技術検討報告書」, 表1,
   https://committees.jsce.or.jp/chair/node/21
   (アクセス日2024年2月9日)
*5  Hiroyasu Inoue & Yasuyuki Todo(2019), Firm-level propagation of shocks through supply-chain networks, Nature Sustainability, volume 2, pp.841–847
   https://www.nature.com/articles/s41893-019-0351-x
   (アクセス日2024年2月9日)
*6  東京都防災会議(2023)「東京都地域防災計画 震災編(令和5年修正)」, 36頁,
   https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/000/359/2023_1.pdf
   (アクセス日2024年2月9日)
*7  気象庁阿蘇山で発表した噴火警報・予報」, 2016年10月,
   https://www.data.jma.go.jp/vois/data/tokyo/STOCK/volinfo/volinfo.php?info=VJ&id=503 
   (アクセス日2024年2月9日)
*8  富士山火山防災対策協議会(2023)「富士山火山避難基本計画」, 4.1頁,
   https://www.pref.shizuoka.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/053/271/kihonkeikaku_1.pdf
   (アクセス日2024年2月9日)
*9  防災・減災、国土強靱化WG・チーム(2021)「事前防災・複合災害ワーキンググループ提言」,
   https://www.bousai.go.jp/kaigirep/teigen/pdf/teigen_05.pdf
   (アクセス日2024年2月9日)
*10 火災予防審議会(2023)「第25期火災予防審議会地震対策部会答申書 地震時における災害の複合化を考慮した消防防災対策の在り方」,
   https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/kk/pdf-data/25k-st-all.pdf
   (アクセス日2023年2月9日)
*11 内閣府(防災担当) (2012)「南海トラフの巨大地震による津波高・浸水域等(第二次報告)及び 被害想定(第一次報告)について」,
   https://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/taisaku_wg/pdf/shiryo.pdf
   (アクセス日2024年2月9日)
*12 中央防災会議 首都直下地震対策検討ワーキンググループ(2013)「首都直下地震の被害想定と対策について(最終報告)~本文~」, 44~45頁,
   https://www.bousai.go.jp/jishin/syuto/taisaku_wg/pdf/syuto_wg_report.pdf
   (アクセス日2024年2月9日)
*13 朝日新聞(2011年3月19日)「首都圏品薄、3つの壁 燃料不足・計画停電・まとめ買い」,
   https://www.asahi.com/special/10005/TKY201103190203.html
   (アクセス日2024年2月9日)