食料危機対策の必要性(10)食料危機発生要因の全体像と根本原因 その2
みなさん、こんにちは。
多忙につき投稿がしばらくできませんでしたが、少し落ち着いたので再開したいと思います。前回予告通り、今回から食料危機発生要因の全体像を整理していくことで、食料危機対策が必要な理由について深掘りしていきます。回数は二回を予定していましたが、詳細な解説とするため、回数を増やしたいと思います。よろしくお願いいたします。
・食料危機発生要因評価の解説(主に人的活動に起因)
【1】人口の増加
●世界食料需給の今までの推移
経済学者のトマス・ロバート・マルサス(1766~1834年)は、人口は何も抑制がなければ等比級数的(例:1、2、4、8…)に増加し、生活物資は等差級数的(例:1、2、3、4…)に増加すると主張し*1、人口を抑制しなければ、食料不足などの貧困や悪徳(犯罪)がもたらされることを警告しまし
た。
しかし、マルサスが生きた時代の1800年に9億人だった世界人口は、2022年には80億人*2と約9倍に増加しているにも関わらず、食料生産は人口増加に歩調を合わせるように増加しています*3。また、穀物価格は1世紀の間に大幅に低落しており*4、1人あたり消費カロリーも世界平均で1990~2019年の期間に13%増加しています*5。
■世界の穀物需給及び期末在庫率推移(1960~2024年)
出典:米国農務省(PS&D)資料より著者作成*3
■インフレ調整後のトウモロコシ、小麦、大豆価格(1912~2018年)
出典:米国農務省作成*4
(情報源)米国農務省国家農業統計サービスおよび米国労働省労働統計局のデータを使用した米国農務省エコノミック・リサーチ・サービスによる算出
■1990年と2019年の特定国の1人当たり消費可能カロリー
出典:米国農務省作成*5
(注)消費可能なカロリーは、小売後の家庭およびレストランでの食品廃棄を含み、したがって、それらは消費されたカロリーより大きい。(情報源)国連FAOのフードバランスシートを使用した米国農務省のエコノミック・リサーチ・サービス
これはマルサスの予想とは異なり、食料供給が人口増加による需要の伸びを上回っていることを意味します。実際、1961年の穀物生産量と世界人口を100とした場合、2022年の世界人口263に対して、穀物生産量は349と生産量が人口の増加を上回っています。
これは、マルサスの想定以上の技術革新の進展(ハーバー・ボッシュ法※など)や出生率抑制(先進国や中国など)があったことなどが原因です。
なお、ここでは今後の世界食料需給を穀物需給から推測しています。世界の1人当たり摂取カロリーの大部分は穀物と畜産物(穀物飼料を大量消費)から供給されており、穀物需給によりおおよその食料需要の推測が可能だからです。
※ハーバー・ボッシュ法:メタンなどから単離した水素と大気中窒素を触媒を用いて高温・高圧下で反応させ、アンモニアを生産する方法。アンモニアは、代表的な窒素肥料である硫酸アンモニアや尿素の原料となる。
■穀物生産量と世界人口推移(1961~2022年, 1961年=100)
出典:国際連合経済社会局人口部*2および国際連合食糧農業機関*7資料より著者作成
(穀物生産数量合計は、小麦・米・トウモロコシ・大麦・モロコシ・キビ・オート麦・ライ麦・その他の合計)
●今後の世界食料需給
国連によると、世界人口は当面増加し続け、2050年に96.4億人、2084年には102.9億人とピークになると予測されています(2023年推測, 各年1月1日時点・中位数)*2。このような人口増加とさらに経済成長が続けば、消費の増大と食生活の質向上により食料需要も増加し続けます。それでは、食料需要増加に応じた食料増産は今後も可能なのでしょうか。
農林水産政策研究所(農林水産省所管)は、2032年の世界需給の見通しとして、「収穫面積(延べ面積)の変動に特段の制約がなく、現行の単収の伸びが継続し、各国政策が現状を維持し、天候・紛争等の不確実性を含まず平年並みの天候を前提」*8とした場合、世界の穀物生産量は、基準年2019~2021の2,713百万トン対して、2032年には15.2%増加の3,126百万トンになると予測しています*9。
■穀物の生産量、単収、収穫面積(世界合計)
出典:農林水産政策研究所資料より著者作成*9
さらに、国連による人口予測*2と同研究所による生産量予測とを同じ期間で比較してみました。2020年(穀物生産量は2019~2021年平均が基準)から2032年までの増加率では、穀物生産量の方が人口より増加率が高く、当面、食料供給が人口増加による需要の伸びを上回ります。以上から当面の世界食料需給は改善する見通しとなります。
■世界人口・穀物生産量増加率比較
出典:国際連合経済社会局人口部*2と農林水産政策研究所*9資料より著者作成
また、一人1日当たりの摂取カロリーではどのように変化するでしょうか。比較期間は若干異なりますが、OECD/FAO※が主なカロリー源である主要食料品の一人当たりの摂取量について予測しています。同予測では2021~2023年平均を基準年とした2033年までの増加率は、世界全体で5.3%増加となることが予測されています*10。現在、配分の問題などにより低所得国を中心に飢餓が発生しているものの、一人1日当たりの摂取カロリーでも世界の食料需給は改善する見通しとなります。
なお、一人あたりの必要カロリーという観点から、世界の食料はいまだ不足していることが指摘されています。高橋五郎・愛知大学名誉教授は、一人1日あたりの摂取カロリーを2,400kcal/日(うち2,350kcalを穀物・畜産物、その60%を穀物から摂取)とするなどの条件を前提に「世界の人口80億人強が直接食べる必要量を満たすには35億2,800万トンの穀物が必要になる勘定なのだが、実際の生産量は27億トン(2022年、米国農務省)で、穀物8億トン不足している」*11と指摘しています。
国際機関や研究機関の生産量と消費量の予測からは、当面、世界全体(平均)では食料需給に問題がないようにみえます。しかし、消費量は必要量と同じではありません。外貨が不足していれば、その国は必要量を輸入できないのです。そのため、世界の食料危機リスクを正確に捉えるためには、現在、世界の食料需給はすでに大きなギャップがある点に留意が必要です。
※OECD(Organisation for Economic Co-operation and Development/経済協力開発機構):欧米など西側諸国を中心に38ヶ国の先進国が加盟する国際的な協力機構
※FAO(Food and Agriculture Organization of the United Nations/国際連合食糧農業機関):世界の経済発展、人類の飢餓からの解放を目的に国際的な取り組みを行う国連専門機関
●今後の食料価格の予測
以上のように、世界の食料需給は数量面、カロリー面では改善傾向と予測されていますが、価格面ではどうなるでしょうか。農林水産政策研究所は、「穀物・大豆の国際価格は、資源・穀物価格高騰前の2006年以前の低い水準には戻らないものの、中期的に、上昇率が抑えられて弱含みの傾向をより強めつつ、やや低下傾向を強める見通し」としています(下線は筆者による)*12。また、新型コロナウイルスの世界的大流行や露によるウクライナ侵攻により2020~2023年にかけて高騰した穀物の実質価格はその後下落していますが、予測では2025年以降は横ばいとなっています*13。
■穀物及び大豆の国際価格の推移の予測(-実線:名目価格、…点線:実質価格)
出典:農林水産政策研究所作成*13
さらに、価格面での推移をもう少し長い期間で見てみるとどうなるでしょうか。IMF※の食料飲料価格指数によると、1992年1月の指数に対して、2024年6月には約2.4倍と高騰しています*14。研究者からは、このような価格高騰は以前の水準に下がることはなく、20年、30年と続いていくのではないかとの指摘もあります*15。
■IMF 食料飲料価格指数(1992年1月~2024年6月, 2016年=100)
出典:IMF資料より著者作成*14
※IMF(International Monetary Fund/国際通貨基金):国際金融システムの安定化などを目的とした国連の専門機関
●食料価格高止まりの継続
食料価格は、前述の米国農務省データが示すように長期的には下落してきましたが、2000年前後で底を打ち、2007~2008年の世界食料価格危機以降は高止まり傾向となっています。
主な原因は、世界人口増加と新興国の経済成長であり、人口増加や経済成長により食料需要が増加しています。さらに、人口増加や経済成長に伴う環境破壊や資源枯渇が、生産コスト上昇やバイオ燃料による食料との競合に繋がっています。
このように食料価格高止まりの原因は、世界人口増加を中心とした構造的なものにあります。そのため、画期的な技術革新や政策が導入されない限りは、食料価格の高止まりが解消する可能性は低いと考えられます。
●世界人口増加が日本に与える影響
このように世界の食料需給は人口増大に伴い不安定化しつつあり、食料価格も高止まりという状況下にあります。経済大国である日本は、現在の経済水準を維持できる限りは、平時において食料危機が発生する可能性は低いと考えられます。しかし、近年の日本は国力が低下しつつあり、購買力低下による「買い負け」も懸念されている状況です*16。また、安い食料や石油の時代は終わっているにも関わらず、輸入依存度が高い状況が続いています。そのため、今後、日本では通常の範囲で発生し得る食料需給逼迫・・・一時的な世界主要産地の同時不作や海外での国際紛争などにより、食料危機に準じたレベルでの食料の価格高騰や品薄が発生する可能性があると考えられます。
10年以内の食料危機発生切迫度については、近年の世界的食料需給逼迫(1973~1974年、2007~2008年、2022~2023年)の発生頻度から「やや高い」と評価しました。
【参考文献】
*1 Thomas Robert Malthus(1798)『An Essay on the Principle of Population, as it affects the future improvement of society, with remarks on the speculations of Mr. Godwin, M. Condorcet and other writers』. London: Printed for J. Johnson, in St. Paul's Church-yard(斉藤悦則訳(2011)『人口論』, 光文社, 33頁)
*2 国際連合経済社会局人口部「World Population Prospects 2024」,
https://population.un.org/wpp/
(アクセス日2024年7月30日)
*3 USDA 「Production, Supply and Distribution Online」, Custom Query,
https://apps.fas.usda.gov/psdonline/app/index.html#/app/advQuery
(アクセス日2024年7月30日)
*4 USDA (2024) 「Inflation-adjusted price indices for corn, wheat, and soybeans show long-term declines」,
https://www.ers.usda.gov/data-products/chart-gallery/gallery/chart-detail/?chartId=76964
(アクセス日2024年7月30日)
*5 USDA (2024) 「Feeding the world: Global food production per person has grown over time」,
https://www.ers.usda.gov/data-products/chart-gallery/gallery/chart-detail/?chartId=107818
(アクセス日2024年7月30日)
*6 FAO (1974) 「REPORT OF THE COUNCIL OF FAO Sixty-Fourth Session」, WORLD FOOD AND AGRICULTURE SITUATION, State of Food and Agriculture 1974, 14,
https://www.fao.org/4/F5340E/F5340E03.htm
(アクセス日2024年7月30日)
*7 FAO「FAOSTAT」(2023年12月27日更新),
https://www.fao.org/faostat/
(アクセス日2024年7月21日)
*8 農林水産政策研究所(2023)「世界の食料需給の動向と中長期的な見通し ―世界食料需給モデルによる2032年の世界食料需給の見通し―」, 24頁,
https://www.maff.go.jp/primaff/seika/attach/pdf/230331_2032_02.pdf
(アクセス日2024年7月30日)
*9 農林水産政策研究所(2023)「世界の食料需給の動向と中長期的な見通し ―世界食料需給モデルによる2032年の世界食料需給の見通し―」, 32頁,
https://www.maff.go.jp/primaff/seika/attach/pdf/230331_2032_02.pdf
(アクセス日2024年7月30日)
*10 OECD-FAO(2024),「OECD-FAO Agricultural Outlook 2024-2033」, 31頁,
https://openknowledge.fao.org/server/api/core/bitstreams/18a38611-e0f9-4e9c-8187-441ab0cce18e/content
(アクセス日2024年7月30日)
*11 高橋五郎(2023)『食料危機の未来年表』, 朝日新聞出版, 47-48頁
*12 農林水産政策研究所(2023)「2032 年における世界の食料需給見通し ―世界食料需給モデルによる予測結果―」,20頁,
https://www.maff.go.jp/primaff/seika/attach/pdf/230331_2032_01.pdf
(アクセス日2024年7月30日)
*13 農林水産政策研究所(2023)「2032 年における世界の食料需給見通し ―世界食料需給モデルによる予測結果―」, 第1図, 22頁,
https://www.maff.go.jp/primaff/seika/attach/pdf/230331_2032_01.pdf
(アクセス日2024年7月30日)
*14 IMF「Primary Commodity Prices」(2024年7月3日更新), Food and Beverage Price Index,
https://www.imf.org/en/Research/commodity-prices
(アクセス日2024年7月21日)
*15 盛田清秀(放送日:2023年3月13日)「もはや食料品価格は下がらない!日本の食料確保は大丈夫か?」, 読むらじる。, NHK,
https://www.nhk.or.jp/radio/magazine/article/my-asa/LOBvd6uvlc.html
(アクセス日2024年7月30日)
*16 新妻一彦(2023年1月6日)「穀物争奪、「日本は買い負ける」 昭和産業・新妻社長の危機感」, 日経ビジネス,
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC1040B0Q3A110C2000000/
(アクセス日2024年7月30日)
食料危機対策の必要性(9)食料危機発生要因の全体像と根本原因 その1
みなさん、こんにちは。
本ブログでは、食料危機の発生要因として有事と大規模自然災害発生の二つをあげ、物流が長期間停滞することで急激に食料危機に陥る可能性を指摘しました。ここでは二回にわたり、その他の要因も含め食料危機発生要因の全体像を整理し、さらに食料危機の根本原因についても触れることで、食料危機対策が必要な理由について深掘りしていきます。
・食料危機対策実施優先度の評価
食料危機発生要因は、「人間活動」と「自然現象」起因するものに大別され、さらに細かく分類されます。本評価では、これらの要因ごとに食料危機対策実施優先度の高さを評価しています。
評価は本ブログ独自の評価尺度である「食料危機対策実施優先度評価指数」によります。これは、食料危機発生の各要因に対して、発生の「切迫度」と「影響度」を四段階で評価し、以下の表の算式で総合的に評価したものです。影響度は直近の食料自給率(カロリーベース)38%(2022年度)*1を参考に、国産食料40%、輸入食料60%の比率で影響度を配分し、さらに国産食料の影響は、国内生産と国内物流で半々の各20%で配分しています。食料危機対策実施優先度評価指数は最大4.0点、最低1.0点となり、4.0点に近いほど食料危機対策実施優先度が高い要因となります。
■食料危機対策実施優先度評価指数算出方法
また、「食料危機対策実施優先度評価指数」算式の構成要素となる切迫度数(切迫度係数)と影響度数の評価方法は、以下の表の通りとなります。切迫度の条件は、対策実施の優先度を決定するための指標のため、「要因事象による10年以内の食料危機発生」としています。
なお、切迫度は優先度を考える上で最も重要な要因ですが、評価が最も難しい要因でもあります。要因評価は、様々な角度から判断していますが、定性的な情報も多く、また、影響緩和や発生防止・遅延の余地も考慮する必要があります。そのため、評価結果は目安程度とご理解ください。
■切迫度の基準
■日本の食料供給への影響度の基準
・食料危機対策実施優先度評価指数の算出結果
食料危機発生要因の分類と食料危機対策実施優先度評価の結果は、以下の通りです。
■食料危機発生要因別の食料危機対策実施優先度評価指数の算出結果
最も食料危機対策実施優先度指数が最も高かったのは、「台湾有事(バシー海峡封鎖)」(指数2.20)、以下「南海トラフ巨大地震と首都圏直下地震または富士山噴火の組み合わせ(主として地象での複合災害)」(指数2.10)、「第五次中東戦争(ホルムズ海峡封鎖)」(指数1.82)となっています。
これらは、有事と大規模自然災害(地震・噴火)であり、短期間のうちに広範囲で食料・エネルギーの物流(供給)を止める可能性があります。また、切迫度が比較的高いと考えられ、食料危機対策の実施優先度が高い要因事象となります。
地球温暖化のような環境に起因する要因も比較的優先度は高いですが、影響緩和や発生防止・遅延の余地もあるため、優先度は有事と大規模自然災害(地震・噴火)と比べ、やや下がります。そのため、家庭における食料危機対策実施にあたりターゲットとする食料危機要因とはしていません。これは、家庭での対策ではリソースが限られるため、重点主義を取ったためでもあります。
■食料危機発生要因別の食料危機対策実施優先度評価指数順位
☆その2に続く…次回は、食料危機発生要因別の詳細と根本原因について解説します。
(参考文献)
*1 厚生労働省「総合食料自給率(カロリー・生産額)、品目別自給率等」,
https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/012.html
(アクセス日2024年2月25日)
*2 NHK(1993年)「コメ市場 部分開放」,
https://www2.nhk.or.jp/archives/movies/?id=D0009030255_00000
(アクセス日2024年2月25日)
*3 読売新聞(2021年9月23日)「海運コンテナ船の運賃急騰、生活じわり影響…食料品への価格転嫁広がる」,
https://www.yomiuri.co.jp/economy/20210922-OYT1T50266/
*4 三石誠司(2014)「アメリカの穀物輸出制限 -行政資料から見た事実の整理と課題-」, フードシステム研究, 第20巻, 4号, 374頁,
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jfsr/20/4/20_372/_pdf
(アクセス日2024年2月25日)
*5 横関至「日本大百科全書(ニッポニカ)」, 東北凶作, 小学館,
https://kotobank.jp/word/%E6%9D%B1%E5%8C%97%E5%87%B6%E4%BD%9C-104182#w-1189270
(アクセス日2024年2月25日)
*6 三菱UFJリサーチ&コンサルティング(2012)「平成23年度農林水産省委託事業「東日本大震災を踏まえた災害に強い食品流通等のあり方に関する調査」」, 94頁
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/ryutu/pdf/4syou.pdf
(アクセス日2024年2月25日)
*7 廣内智子・田中守・島田郁子・荻沼一男(2014)「東日本大震災直後における被災者の食糧供給に関する経日的変化」, 日本災害食学会誌, VOL.1, NO1, 32頁
http://www.udri.net/journal/01_JuournalmonoVol1No1/j01-pp29-33_tomoko-hirouti-and.pdf
(アクセス日2024年2月25日)
*8 NHK(2022年4月3日)「【詳しく】なぜ中東で食糧危機?ウクライナ侵攻影響」,
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220403/k10013562521000.html
(アクセス日2024年2月25日)
*9 三上岳彦(2012)「気候変動と飢饉の歴史 -天明の飢饉と気候の関わり-」, 地理科学, vol.67 no.3, 29, 33-34頁,
https://www.jstage.jst.go.jp/article/chirikagaku/67/3/67_KJ00008274910/_pdf/-char/ja
(アクセス日2024年2月25日)
*10 国立公文書館「天下大変 資料に見る江戸時代の災害」, 天明の飢饉,
https://www.archives.go.jp/exhibition/digital/tenkataihen/famine/index.html
(アクセス日2024年2月25日)
*11 朝日新聞(2023年12月9日)「兵糧攻めから生き残ったのに、食事したら死んだ? 医師らが論文発表」,
https://www.asahi.com/articles/ASRD85H1TRD1PUUB00D.html
(アクセス日2024年2月25日)
*12 昭和館「戦後復興までの道のり ―配給制度と人々の暮らし-」,
https://www.showakan.go.jp/kikakuten/%e6%88%a6%e5%be%8c%e5%be%a9%e8%88%88%e3%81%be%e3%81%a7%e3%81%ae%e9%81%93%e3%81%ae%e3%82%8a-%e9%85%8d%e7%b5%a6%e5%88%b6%e5%ba%a6%e3%81%a8%e4%ba%ba%e3%80%85%e3%81%ae%e6%9a%ae%e3%82%89%e3%81%97/
食料危機対策の必要性(8)複合災害により食料危機リスクは高まる
みなさん、こんにちは。
首都圏直下地震や南海トラフ巨大地震では、東日本大震災以上の人的・経済的被害が想定されています。そのとき食料供給にはどういう影響がでるのでしょうか。被災直後だけではなく長期での影響、さらに、複数の災害が重なる複合災害となった場合の影響についても気になるところです。ここでは地震被害のケースを中心にその影響をみてみましょう。
・政府被害想定による飲料水・食料への影響
政府により発表されている南海トラフ巨大地震と首都圏直下地震の被害想定では、飲料水・食料等の物資についての影響も想定されています。
また、被害想定では想定被災地域に大都市圏を抱えていることもあり、被害の様相に共通の想定が多くあります。その共通点は、以下の通りです*1*2。
○地震発生直後 公的・家庭内の備蓄(食料や飲料水)が大幅に不足し、被災地域の内外で買い占めが発生します。
○概ね1日後~数日後 食料は大幅に不足し、全国的にも被災地支援や自らの必要量以上を備蓄するための買い占めが発生します。また、支援物資の被災地への搬入に起因する道路渋滞や被災による道路寸断により、被災地外からの支援物資の配送が困難となります。小売店では、被災を逃れた被災地内外の大型小売店等では営業を継続されるものの、小型小売店等では被災により開店できなくなります。
○概ね1週間後 飲食料品の製造工場だけではなく、農産物の生産地や包装材等の工場の被災するため、食料などの生産・供給困難となります。さらに、交通インフラ復旧後も、トラック燃料の不足から、物資の調達・配送が困難となります。
○さらに厳しい被害様相 商品の輸送が十分に行えない状態が長期化することで、飲料水・食料や医薬品などの不足で著しく体調を崩す人が多数に上ります。
このような政府の被害想定は、東日本大震災や阪神・淡路大震災の状況を踏まえて想定されたものです。しかし、東日本大震災や阪神・淡路大震災と、今後想定される南海トラフ巨大地震や首都圏直下地震では、後者の方が圧倒的に想定被災地域の人口が多く、「さらに厳しい被害様相」を前提とした対策が必要になると考えられます。
・長期的な経済被害による食料危機の発生
南海トラフ巨大地震と首都圏直下地震における被害想定については、政府以外からも発表されています。土木学会からは、2018年に「「国難」がもたらす巨大災害対策についての技術検討報告書」*3が発表されており、同報告書では、政府の被害想定にはない中長期的に継続する被害も考慮して経済的損害額を算定しています。地震・津波被害(南海トラフ地震・首都直下地震)については、阪神・淡路大震災では経済被害(GDPの毀損)が20年に渡り影響したことから、20年累計として経済被害を南海トラフ地震1,240兆円・首都直下地震731兆円、財政的被害を南海トラフ地震131兆円・首都直下地震77兆円と推計しています*4。
また、南海トラフ地震は、地震発生1年後にGDPを11.1%減少させると、研究者によって推定されています。GDP減少額の内訳は、地震や津波による直接的影響0.5%に対してサプライチェーンの途絶による間接的影響が10.6%となっており、間接的影響が大部分を占めています*5。
このように巨大地震は長期に渡り経済的低迷をもたらします。これは結果的に日本の食料購買力の低下をもたらすと考えられます。食料購買力の低下が著しいようであれば、気候変動などにより世界的に食料価格が高騰した場合に、食料危機を引き起こす可能性が高まります。
・複合災害による食料危機リスクの増大
過去の地震や噴火などの事例からは、同種あるいは異種の災害が同時または時間差をもって発生する複合災害*6が度々発生していることが分かります。
このような地震や噴火などによる複合災害は、単独の地震・噴火と異なり具体的な被害想定作成や対策は遅れているのが現状です。2021年3月に富士山火山防災対策協議会から発表された「富士山火山避難基本計画」には、巨大地震後に富士山噴火するケースなどでの複合災害を想定した避難計画を検討することが記載されています*8。同年5月には事前防災・複合災害ワーキンググループから、政府に対して「事前防災・複合災害ワーキンググループ提言」が提出されています*9。
さらに、2023年に火災予防審議会から、東京都に対して複合災害のストーリーシミュレーション結果も含む「地震時における災害の複合化を考慮した消防防災対策の在り方」が答申されています*10。しかし、国としての対応はこれからといった状況のようです。
また、単独の地震・噴火の被害想定はあっても、連動して発生する過酷事象は除外されていることが多い状況です。南海トラフ巨大地震の想定では、原子力事故については触れられていません*11。首都圏直下地震の想定では、海抜ゼロメートル地帯での浸水、コンビナートでの大規模火災といった過酷事象はリスクとしての認識はありますが、想定の対象とはされていません*12。
このように、複合災害の被害については、被害想定も不十分であり未知の要素が多いのが現状です。しかし、複合被害は、単独災害より被害が大規模化・長期化しやすく、食料危機リスクを高めるといえます。
例えば、東日本大震災では巨大地震・津波により大規模な原子力事故も含む複合災害となり、国内の食料供給にも大きな影響が出ました。これにより放射性物質で汚染された食品の出荷が制限され、燃料不足・計画停電で生産・物流が滞ったこともあり食品の品薄が長引きました*13。原子力事故がもっと大規模であれば、長期の食料危機に発展した可能性もありました。
【参考文献】
*1 南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ(2013)「南海トラフ巨大地震の被害想定について(第二次報告)~施設等の被害~【被害の様相】」, 58~59頁,
https://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/taisaku_wg/pdf/20130318_shiryo2_1.pdf
(アクセス日2024年2月9日)
*2 首都直下地震対策検討ワーキンググループ(2013)「首都直下地震の被害想定と対策について(最終報告)~施設等の被害の様相~」, 59-60頁,
https://www.bousai.go.jp/jishin/syuto/taisaku_wg/pdf/syuto_wg_siryo02.pdf
(アクセス日2024年2月9日)
*3 土木学会(2018)「『国難』がもたらす巨大災害対策についての技術検討報告書」,
https://committees.jsce.or.jp/chair/node/21
(アクセス日2024年2月9日)
*4 土木学会(2018)「本編_「国難」がもたらす巨大災害対策についての技術検討報告書」, 表1,
https://committees.jsce.or.jp/chair/node/21
(アクセス日2024年2月9日)
*5 Hiroyasu Inoue & Yasuyuki Todo(2019), Firm-level propagation of shocks through supply-chain networks, Nature Sustainability, volume 2, pp.841–847
https://www.nature.com/articles/s41893-019-0351-x
(アクセス日2024年2月9日)
*6 東京都防災会議(2023)「東京都地域防災計画 震災編(令和5年修正)」, 36頁,
https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/000/359/2023_1.pdf
(アクセス日2024年2月9日)
*7 気象庁「阿蘇山で発表した噴火警報・予報」, 2016年10月,
https://www.data.jma.go.jp/vois/data/tokyo/STOCK/volinfo/volinfo.php?info=VJ&id=503
(アクセス日2024年2月9日)
*8 富士山火山防災対策協議会(2023)「富士山火山避難基本計画」, 4.1頁,
https://www.pref.shizuoka.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/053/271/kihonkeikaku_1.pdf
(アクセス日2024年2月9日)
*9 防災・減災、国土強靱化WG・チーム(2021)「事前防災・複合災害ワーキンググループ提言」,
https://www.bousai.go.jp/kaigirep/teigen/pdf/teigen_05.pdf
(アクセス日2024年2月9日)
*10 火災予防審議会(2023)「第25期火災予防審議会地震対策部会答申書 地震時における災害の複合化を考慮した消防防災対策の在り方」,
https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/kk/pdf-data/25k-st-all.pdf
(アクセス日2023年2月9日)
*11 内閣府(防災担当) (2012)「南海トラフの巨大地震による津波高・浸水域等(第二次報告)及び 被害想定(第一次報告)について」,
https://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/taisaku_wg/pdf/shiryo.pdf
(アクセス日2024年2月9日)
*12 中央防災会議 首都直下地震対策検討ワーキンググループ(2013)「首都直下地震の被害想定と対策について(最終報告)~本文~」, 44~45頁,
https://www.bousai.go.jp/jishin/syuto/taisaku_wg/pdf/syuto_wg_report.pdf
(アクセス日2024年2月9日)
*13 朝日新聞(2011年3月19日)「首都圏品薄、3つの壁 燃料不足・計画停電・まとめ買い」,
https://www.asahi.com/special/10005/TKY201103190203.html
(アクセス日2024年2月9日)
食料危機対策の必要性(7)巨大地震と富士山噴火の切迫性と被害規模
みなさん、こんにちは。
本ブログで、食料危機発生の原因となる可能性の高い事象の二つ目としてあげているのが、大地震・噴火に代表される大規模自然災害です。今年1月1日に発生した能登半島地震(M7.6)でも、物流が寸断されたことで孤立した地域での食料不足が問題となりました。日本列島では大地震・噴火の活動期に入った可能性があり、首都圏直下地震、南海トラフ巨大地震、富士山噴火など大規模自然災害の発生リスクも指摘されています。それでは、その切迫性や被害規模についてはどのような予測がなされているのでしょうか。
・巨大地震・噴火の切迫性と連動
日本列島では、9世紀後半・18世紀前半に大地震・噴火が相次ぎました。下表からは、海溝型巨大地震や富士山噴火などが短期間に集中して発生していることが分かります。このように地震と噴火の活動には、比較的発生の多い時期(活動期)があることが分かります。
■活動期における日本の主な地震・噴火
出典:地震調査研究本部*1及び気象庁*2資料から著者作成
※火山爆発指数(VEI:Volcanic Explosivity Index)は0~8で区分される火山爆発指数のことで、最大は8となる。噴出物量により規模を推定する。VEI2~3で中規模、4以上で大規模となる。
現在、日本列島はこのような大地震・噴火の活動期に入った可能性があります。研究者からは、日本列島が東日本大震災発生以降「大地変動の時代」に入ったとの指摘があり*3、政府の地震調査研究本部からは「南海トラフで発生する地震」(M8~9クラス)の発生確率は10年以内に30%程度、30年以内に70~80%(2024年1月1基準)*4、「南関東で発生するM7程度の地震」の発生確率は30年以内に70%程度(2009年1月1基準)*5と発表されています。
また、研究者からは大地震が発生すると火山噴火が誘発されやすいことや*6「富士山の噴火活動は南海~駿河トラフの海溝型地震と発生同年から数年間に、相模トラフの海溝型地震とは2・3~30年間に相関」があることも指摘されています*7。富士山は1707年の宝永噴火以来、300年を超える異例の長さで噴火していませんが、南海トラフ巨大地震である宝永地震が発生した1707年10月28日の49日後の12月16日に富士山宝永噴火があった例もあり、今後の富士山の火山活動の動向は要注意といえます。
以上のように、日本列島は、既に大地震・噴火の発生やその連動に注意すべき時期にあると考えられます。
・政府による地震の被害想定
政府は発生の切迫性が指摘されている南海トラフ巨大地震、首都圏直下地震、日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震、富士山噴火などについて被害想定を公表しています。地震の被害想定について東日本大震災の被害と比較してみると、南海トラフ巨大地震の場合、人的被害、経済的被害額ともに10倍を超える甚大な被害規模となっています。首都圏直下地震の場合、地震規模こそ小さいものの人的被害はほぼ同数、経済的被害額は6.4倍の被害が想定されています。
■政府による地震・噴火の被害想定(概要)
※1複数の地震モデルが想定される中で、被害が大きく首都中枢機能への影響が大きいと考えられるため設定された。
※2モーメント・マグニチュード(Mw)は、断層運動のずれ(面積と量の積)をもとに計算した地震のエネルギー量を示す指標。大規模地震の大きさを正確に見積もれる。
■東日本大震災 震度分布図
出典:気象庁作成*18
■日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震(千島海溝モデル) 震度分布図
出典:日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震モデル検討会*19作成
■日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震(日本海溝モデル) 震度分布図
出典:日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震モデル検討会作成*19
■M7クラスの首都直下地震 (都心南部直下地震) 震度分布図
出典:首都直下地震モデル検討会作成*20
■南海トラフ巨大地震(基本ケース) 震度分布図
出典:南海トラフの巨大地震モデル検討会作成*21
・政府による富士山噴火の被害想定
富士山噴火については、2004年に富士山ハザードマップ検討委員会が「富士山ハザードマップ検討委員会報告書」を発表しています。宝永噴火と同じケースを前提として、被害額や建物被害棟数など定量的な被害想定もなされており*17、最大被害額は約2兆5千億円とされています。しかし、多くの火山学者がこれは過小評価ではないかと考えているといわれています*22。
また、2021年に富士山火山防災対策協議会から「富士山ハザードマップ(改定版)検討委員会報告書」*23、2022年に中央防災会議の⼤規模噴⽕時の広域降灰対策検討ワーキンググループから「大規模噴火時の広域降灰対策について」*24が発表されています。これらは噴火に伴う現象のシミュレーションは想定されていますが、人的被害・建物被害・経済的被害額は想定されていません。
以上のように、精度の高い定量的な被害想定は存在しない状況であり、その被害には未知の要素が多いといえます。これは富士山噴火の規模や様式が多様なことや首都圏のような大規模な近代都市への降灰は経験がないことから、被害想定の作成そのものに困難さが存在するためと考えられます。しかし、噴火は日本の政治経済の中心地を直撃し、東西を結ぶ交通・通信網を遮断することから、日本全体へ甚大な影響を与える可能性が高いと考えられます。
■降灰の可能性マップ
※2cm:何らかの健康被害が発生するおそれあり、10cm:降雨時、土石流が発生、30cm:降雨時、木造家屋が全壊するおそれあり、50cm:30%の木造家屋が全壊
出典:富士山火山防災対策協議会作成*25
【参考文献】
*1 地震調査研究推進本部「都道府県ごとの地震活動」,
https://www.jishin.go.jp/regional_seismicity/
(アクセス日2024年1月31日)
*2 気象庁「全国の活火山の活動履歴等」,
https://www.data.jma.go.jp/vois/data/tokyo/STOCK/kaisetsu/vol_know.html#rireki
(アクセス日2024年1月31日)
*3 鎌田浩毅(2022)『知っておきたい地球科学-ビッグバンから大地変動まで』, 岩波書店, ⅳ~ⅴ頁
*4 地震調査研究推進本部(2024)「今までに公表した活断層及び海溝型地震の長期評価結果一覧」, 2.海溝型地震の長期評価の概要(算定基準日 令和6年(2024年)1月1日),
https://www.jishin.go.jp/main/choukihyoka/ichiran.pdf
(アクセス日2024年1月31日)
*5 地震調査研究推進本部(2009)「日本の地震活動― 被害地震から見た地域別の特徴 ― <第2版>」, 195頁,
https://www.jishin.go.jp/main/nihonjishin/2010/kanto.pdf
(アクセス日2024年1月31日)
*6 Takeshi Nishimura(2021), Volcanic eruptions are triggered in static dilatational strain fields generated by large earthquakes, Scientific Reports, volume 11, Article number: 17235,
https://www.nature.com/articles/s41598-021-96756-z
(アクセス日2024年1月31日)
*7 林譲治(2022)「富士山噴火と周辺の海溝型地震の発生には時間的な関連性があるのか —2×2 分割表による独立性検定を用いて —」『名古屋地学』, 83号, 30頁,
https://www.jstage.jst.go.jp/article/nasses/83/0/83_25/_pdf/-char/ja
(アクセス日2024年1月31日)
*8 緊急災害対策本部(2023)「平成 23 年(2011 年)東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)について」,1~2, 42頁,
https://www.bousai.go.jp/2011daishinsai/pdf/torimatome20230309.pdf
(アクセス日2024年1月31日)
*9 中央防災会議・防災対策実行会議・日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震対策検討ワーキンググループ(2022)「日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震の対策について報書(本文)」, 3 ,7 ,8 ,10頁,
https://www.bousai.go.jp/jishin/nihonkaiko_chishima/WG/pdf/220322/shiryo03.pdf
(アクセス日2024年1月31日)
*10 中央防災会議 首都直下地震対策検討ワーキンググループ(2013)「首都直下地震被害想定と対策について(最終報告)~本文~」, 10頁,
https://www.bousai.go.jp/jishin/syuto/taisaku_wg/pdf/syuto_wg_report.pdf
(アクセス日2024年1月31日)
*11 中央防災会議 首都直下地震対策検討ワーキンググループ(2013)「首都直下地震の被害想定と対策について(最終報告)~ 人的・物的被害(定量的な被害) ~」, 5~6頁,
https://www.bousai.go.jp/jishin/syuto/taisaku_wg/pdf/syuto_wg_siryo01.pdf
(アクセス日2024年1月31日)
*12 中央防災会議 首都直下地震対策検討ワーキンググループ(2013)「首都直下地震の被害想定と対策について(最終報告)~ 経済的な被害の様相 ~ 」, 19頁,
https://www.bousai.go.jp/jishin/syuto/taisaku_wg/pdf/syuto_wg_siryo03.pdf
(アクセス日2024年1月31日)
*13 内閣府(防災担当) (2012)「南海トラフの巨大地震による津波高・浸水域等(第二次報告)及び 被害想定(第一次報告)について」,
https://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/taisaku_wg/pdf/shiryo.pdf
(アクセス日2024年1月31日)
*14 南海トラフの巨大地震モデル検討会(2012)「南海トラフの巨大地震による震度分布・津波高について(第一次報告)」, 12頁,
https://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/model/pdf/1st_report.pdf
(アクセス日2024年1月31日)
*15 内閣府政策統括官(防災担当)(2019)「南海トラフ巨大地震の被害想定について(建物被害・人的被害)」, 14~17, 19~26頁,
https://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/taisaku_wg/pdf/1_sanko2.pdf
(アクセス日2024年1月31日)
*16 内閣府政策統括官(防災担当)(2019)「南海トラフ巨大地震の被害想定について(経済的な被害)」, 14頁,
https://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/taisaku_wg/pdf/3_sanko.pdf
(アクセス日2024年1月31日)
*17 富士山ハザードマップ検討委員会(2004)「富士山ハザードマップ検討委員会報告書」,135~136頁,
https://www.bousai.go.jp/kazan/fuji_map/pdf/report_200406.pdf
(アクセス日2024年1月31日)
*18 気象庁「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震に関する観測・解析データなど」, 震度分布図 矩形内拡,
https://www.data.jma.go.jp/svd/eqev/data/2011_03_11_tohoku/201103111446_smap_ks.png
(アクセス日2024年1月31日)
*19 日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震モデル検討会(2020)「日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震モデルの検討について(参考図表集)」, 7頁,
https://www.bousai.go.jp/jishin/nihonkaiko_chishima/model/pdf/sankozuhyou.pdf
(アクセス日2024年1月31日)
*20 首都直下地震モデル検討会(2013)「首都直下のM7クラスの地震及び相模トラフ沿いのM8クラスの地震等の震源断層モデルと震度分布・津波高等に関する報告書 図表集」, 図51左図, 44頁,
https://www.bousai.go.jp/kaigirep/chuobou/senmon/shutochokkajishinmodel/pdf/dansoumodel_02.pdf
(アクセス日2024年1月31日)
*21 南海トラフの巨大地震モデル検討会(2012)「南海トラフの巨大地震による震度分布・津波高について(第一次報告)巻末資料」, 図4.1, 29頁
https://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/model/pdf/kanmatsu_shiryou.pdf
(アクセス日2024年1月31日)
*22 鎌田浩毅(2022)『知っておきたい地球科学 ―ビッグバンから大地変動まで』, 岩波書店, 203頁
*23 富士山火山防災対策協議会(2021)「富士山ハザードマップ(改定版)検討委員会報告書」,
https://www.pref.shizuoka.jp/bosaikinkyu/sonae/kazanfunka/fujisankazan/1030190.html
(アクセス日2024年1月31日)
*24 中央防災会議 防災対策実⾏会議 ⼤規模噴⽕時の広域降灰対策検討ワーキンググループ(2020)「大規模噴火時の広域降灰対策について ―首都圏における降灰の影響と対策―~富士山噴火をモデルケースに~ (報告)」,
https://www.bousai.go.jp/kazan/kouikikouhaiworking/pdf/syutohonbun.pdf
(アクセス日2024年1月31日)
*25 富士山火山防災対策協議会(2021)「富士山ハザードマップ(改定版)検討委員会報告書」, 図5.7-3, 163頁
https://www.pref.shizuoka.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/030/190/05-7_syou05-7.pdf
(アクセス日2024年1月31日)
食料危機対策の必要性(6)シーレーン封鎖が食料危機を引き起こす!
みなさん、こんにちは。
本ブログで、食料危機発生の原因となる可能性の高い事象の一つとしてあげているのが有事です。最近では、パレスチナ・ガザ地区での戦争に関係して紅海での船舶攻撃が激化し、海上輸送停止が相次いでいることが問題となっています。それでは、このような有事によるシーレーン封鎖が発生した場合、日本の食料供給に対して、どのような影響を与えるのでしょうか。
・日本におけるシーレーンの重要性
日本は資源の多くを国外に依存しており、食料やその生産・物流を支えるエネルギー資源も例外ではありません。また、輸入貨物(重量ベース)の99%以上を海上輸送に頼っており*1、穀物はばら積み船(ドライバルク船)、原油などエネルギー輸送は専用タンカーで運ばれています。
そのため、これらの安定的な輸入のためには、シーレーンの安全を確保することが重要となります。シーレーンとは石油や食料など重要物資を運ぶ、国家にとり重要な海上輸送ルートのことです。これは海上兵站ルートを指す軍事用語のSLOC(Sea Lines of Communication)から派生した用語です。
・チョークポイント
シーレーンの安全を確保するためには、とくにチョークポイントの安全な通行が重要になります。チョークポイントというのは、地政学上の概念で、シーレーンにおける海峡や運河など狭いポイントを指します。チョーク(choke)というのは、英語で詰まらせる、ふさぐという意味なので、まさに、ここを押さえてしまえば、航路を止めることができる点(point)となります。
・農産物とエネルギーの輸入ルート
日本の農産物輸入ルートは、カロリーベース食料自給率の43%を占める*2北米や豪州から輸入するルートが最重要となります。このルートのチョークポイントは、メキシコ湾岸からの場合はパナマ運河、豪州西部からの場合はロンボク海峡・マカッサル海峡となります。
その他南米(ブラジル)、欧州、黒海、アフリカ、東南アジアから輸入するルートがあります。このルートのチョークポイントは、スエズ運河、バブ・エル・マンデブ海峡、マラッカ海峡、シンガポール海峡、バシー海峡などあります。
■海外から日本への主な農産物輸入ルート
出典:農林水産省作成*3
日本のエネルギー輸入ルートは、原油輸入量の94%(2022年)*4を占める中東から輸入するルートが最重要となります。このルートのチョークポイントは、ホルムズ海峡、バブ・エル・マンデブ海峡、マラッカ海峡、シンガポール海峡、最後に通過するバシー海峡となります。また、原油ほど依存度は高くありませんが、この輸入ルート上は天然ガスの輸入ルートにもなっています。液化天然ガス輸入量の31%(2022年)*5にあたる中東・北アフリカ・東南アジア(インドネシアからの輸入はバシー海峡を通過するとは限らないので除く)からの輸入もバシー海峡を通過します。
■世界の石油の主な石油貿易(2020年)
出典:資源エネルギー庁作成 (注)上図の数値は原油および石油製品の貿易量を表す(BP「Statistical Review of World Energy 2021」を基にBPの換算係数を使用して作成)*6
なお、シーレーンにおける輸入ルートは、一般的に迂回ルートが存在しますが、迂回することで輸送距離が長くなります。例えば、台湾有事の影響のため、中東のペルシャ湾から日本までのバシー海峡を通るタンカーの航路が通過できなくなり、ロンボク海峡から迂回するルートとなった場合は、輸送距離は約1,000マイルの延長となります。これによりタンカーが時速15ノットであれば約3日間の所要日数延長が見込まれます。さらにロンボク海峡も通過できない場合は、豪州南方から迂回するルートとなります。迂回により航程が増大した分についてチャーターする船舶を増やすことができなければ、当該航路の輸送能力は低下することになります。
また、ペルシャ湾のような袋小路となっているルートで、チョークポイント(この場合ホルムズ海峡)が封鎖された場合は、迂回ルートが存在しないため、船による輸入そのものができなくなります。
■インド洋・西太平洋のシーレーン(中東~日本間)
※航路を示す矢印はイメージであり、正確な航路を示している訳ではありません。
・有事発生によるシーレーン封鎖
2022年2月24日にロシアがウクライナへ侵攻しました。また、2023年10月7日にはハマスによるイスラエルへの一斉攻撃によりパレスチナ・ガザ地区で戦争が始まりました。さらに、東アジアでは、台湾有事発生のリスクの高まりが指摘されています*7*8。『令和5年版 防衛白書』においても「中台間の軍事的緊張が高まる可能性も否定できない」とあり、政府も強く懸念していることが窺われます*9。国際情勢は急激に緊迫度を増してきたといえます。
そのため、有事発生によりシーレーンが封鎖されることで、食料危機が発生するリスクが高まってきたといえます。具体的には、バシー海峡のように領海外のチョークポイントが封鎖されることで商船が大幅な迂回を余儀なくされることが想定されます。最悪の場合、日本全体もしくは一部地域が海上封鎖され、食料や原油などを積んだ商船が寄港できない場合も想定されます。
第二次世界大戦末期に、日本は機雷封鎖*10や通商破壊により輸入途絶同然の状況となり、食料事情が極度に悪化しました。このような兵糧攻めの作戦は、現代戦でも見られることです*11。かつては有事による海上封鎖により、食料輸入が途絶するような事態は杞憂であるとの指摘もありました*12。しかし、ロシアによるウクライナ侵攻という核保有国による国境変更や領土取得の現実の前には、杞憂とはいえなくなってきたと考えられます。
また、日本周辺での軍事的パワーバランスは、日本にとって厳しい方向に変化してきています。『令和5年版 防衛白書』*13では「中台の軍事バランスは全体として中国側に有利な方向に急速に傾斜する形で変化している」ことが指摘されています。
さらに米国のシンクタンクであるヘリテージ財団による報告書*14では、米軍の2023年の総合評価は「Very Strong」、「Strong」、「Marginal」、「Weak」、「Very Weak」の五段階評価のうち、史上初めて前年の「Marginal(ぎりぎり要件を満たす)」から「Weak(弱い)」へランクダウンしました。海軍も同様に「Weak(弱い)」にランクダウンしました。日本のシーレーンの安全保障はとくに米海軍の力によるところが大であり、このような点からも有事による食料危機リスク増大が懸念されるところです。
・シーレーン封鎖の影響
台湾有事によりバシー海峡が封鎖された場合、とくに石油や天然ガスの輸入に支障が生じることで日本経済全体に影響が発生します。その結果、国内における食料の生産・加工・物流に必要な燃料・電力の供給にも甚大な影響が出ると考えられます。さらに同海峡は南米(ブラジル)、欧州、黒海、アフリカ、東南アジアからの食料輸入ルートでもあり、穀物の割合こそ少ないものの多様な食料の輸入に影響します。
また、世界大戦のような事態となった場合は、輸入途絶などにより食料供給が大幅に減少する可能性が考えられます。たとえ日本が直接巻き込まれない場合であっても、食料やエネルギー価格が極端に高騰すれば、輸入は大幅に減少すると考えられます。
一方で、食料自給力指標では、国内生産のみによるいも類中心の作付けの場合、推定エネルギー必要量を上回る供給ができるとされています。しかし、日本が国内の資源で養うことが可能な人口は4,000~6,000万人程度とするのが妥当なところである*15、食料・エネルギーを海外から輸入できない場合は、日本で養える人口は3,000万人前後だろうとの有識者や研究者による試算もあり*16、同指標との間に大きな隔たりがあります。これは、同指標が海外からの輸入にほぼ依存している肥料、農薬、化石燃料を利用できるなどの前提があるからです。
以上から、有事において食料・エネルギーの主要シーレーンが封鎖された場合は、非常に厳しい状況になると想定されます。有事は絶対に「あってはいけないこと」ですし、そうならないように強く願うところです。しかし、「あってはならないこと」であるが故に、「おきないこと」になる訳ではありません。福島第一原子力発電所事故のように、絶対に「あってはいけない」ことでも「おきてしまうこと」があるのです。
【参考文献】
*1 国土交通省(2023)「交通(物流)の利便性向上、円滑化及び効率化」,12頁,
https://www.mlit.go.jp/common/000170305.pdf
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*2 農林水産省(2023) 「特集 01数字で学ぶ「日本の食料」」『aff(あふ)』, 2023年 2月号, 我が国の供給カロリーの国別構成(試算),
https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/2302/spe1_01.html#main_content
(アクセス日2024年1月28日)
*3 農林水産省(2023)「特集 01数字で学ぶ「日本の食料」」『aff(あふ)』, 2023年2月号, 海外から日本への主な農産物輸入ルート,
https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/2302/spe1_01.html#main_content
(アクセス日2024年1月28日)
*4 資源エネルギー庁「令和4年(2022)資源・エネルギー統計年報」, 5-6頁,
https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/sekiyuka/pdf/h2dhhpe2022k.pdf
(アクセス日2024年1月28日)
*5 財務省「貿易統計」, 普通貿易統計, 品別国別表, 品目コード2711.11,
https://www.customs.go.jp/toukei/srch/index.htm?M=01&P=0
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*6 資源エネルギー庁「令和3年度エネルギーに関する年次報告 (エネルギー白書2022)」,第222-1-9,119頁,
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2022/pdf/2_2.pdf
(アクセス日2024年1月28日)
*7 武居智久(2022)「まえがき」, 岩田清文・武居智久・尾上定正・兼原信克『自衛隊最高幹部が語る台湾有事』, 新潮社. 4頁
*8 山下裕貴(2023)『完全シミュレーション台湾侵攻戦争』, 講談社, 14頁
*9 防衛省(2023)『令和5年防衛白書』, 91頁,
https://www.mod.go.jp/j/press/wp/wp2023/pdf/R05zenpen.pdf
(アクセス日2024年1月28日)
*10 NHK(2021年8月4日)「美しい半島の海は“戦場”だった ~知られざる悲劇を語り継ぐ」,
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210804/k10013175771000.html
(アクセス日2024年1月28日)
*11 読売新聞(2022年4月23日)「ロシア軍が電力・食料遮断する「兵糧攻め」…マリウポリ「掌握」、米国防総省が否定」,
https://www.yomiuri.co.jp/world/20220422-OYT1T50284/
(アクセス日2024年1月28日)
*12 川島博之(2014)「日本の食料安全保障」『生活協同組合研究』, 39頁,
https://www.jstage.jst.go.jp/article/consumercoopstudies/466/0/466_36/_pdf/-char/ja
(アクセス日2024年1月28日)
*13 防衛省『令和5年版 防衛白書』,94頁,
https://www.mod.go.jp/j/press/wp/wp2023/pdf/R05zenpen.pdf
(アクセス日2024年1月28日)
*14 Heritage Foundation(2022年10月18日), Heritage Foundation Releases 2023 Index of U.S. Military Strength, Gives U.S. Military First-Ever ‘Weak’ Overall Rating,
https://www.heritage.org/press/heritage-foundation-releases-2023-index-us-military-strength-gives-us-military-first-ever
(アクセス日2024年1月28日)
*15 石坂匡身・大串和紀・中道宏(2023)『日本は食料危機にどう備えるか コモンズとしての水田農業の再生』, 農文協, 90頁
*16 篠原信(2022)『そのとき、日本は何人養える?食料安全保障から考える社会のしくみ』, 家の光協会, 35頁
食料危機対策の必要性(5)米以外の民間在庫は1ヶ月分程度
みなさん、こんにちは。
政府備蓄はあまりなくても、民間企業の食品在庫は結構あるのではないかと思う方も多いのではないでしょうか。しかし、食品は工業製品と違って長持ちせず、また、在庫(棚卸資産)を圧縮した方が資金繰りはよくなるので、企業にとって在庫が少ないことは一般的に都合がよいことのようです。それでは、民間企業の食品在庫はどのくらいあるのでしょうか。
・民間企業の在庫
食料危機対策には、政府による緊急事態に対する施策がある一方で、民間企業の在庫や供給能力も対策上、考慮すべき要素となります。ここでは自給食料の要である米および食料品製造業など民間企業の在庫状況について確認します。
・米在庫
米の2023/2024年の国内需要見通しは681万トンです*1。生産はほぼ国内であり、JA全農や卸売・小売などが在庫を確保しています。ただし、在庫量は、11月に340万玄米トン前後とピークとなりますが、新米の出回る前の8月には110万玄米トン前後と底になります。在庫水準の高低に最大3倍程度の開きがあるため、食料危機が発生した場合、いつの季節に発生したかによって、その後の食料供給量に大きな差が出てくると考えられます。
■玄米在庫推移(出荷+販売段階)
出典:農林水産省資料*2より著者作成
・食品産業の棚卸資産回転期間
財務省による「法人企業統計年報」をもとに、食料品製造業および飲食サービス業の棚卸資産回転期間(日)などの算出を行いました。棚卸資産回転期間とは「売上高に対する棚卸資産の割合をいい、企業の所有する棚卸資産がどれくらいの期間で販売されたかを計る尺度」*3のことです。計算式は以下の通りです。
これにより、原材料や商品の仕入れが止まり、棚卸資産のみから生産・出荷した場合、平均何日で棚卸資産がはけるか(いつまで供給可能か)おおよその見込みを知ることができます。
■食料品製造業の財務分析 (単位=百万円)
出典:財務省資料*4,5より著者作成
■飲食サービスの業財務分析 (単位=百万円)
出典:財務省資料*4,5より著者作成
さらに「法人企業統計年報」には食品小売業と食品卸業の項目がないため、大手食品スーパーマーケット3社および大手食品卸売業3社の棚卸資産回転期間などを算出しました。なお、対象企業の事業内容が全て食品とは限らないので、本分析はあくまでも参考値となります。
■大手食品スーパーマーケットの財務分析 (単位=百万円)
■大手食品卸売業の財務分析 (単位=百万円)
算出の結果、棚卸資産回転期間(日)は、全規模平均で食料品製造業は35.6日、飲食サービス業は7.1日、また、大手スーパーマーケット3社は12.1日(単純平均)、大手食品卸3社は10.3日(単純平均)であることが分かりました。
食品産業は一般的に鮮度や衛生面から在庫を多く持つことは難しいと考えられますが、本分析からもそのことが窺えました。一方で、これは原材料や商品の仕入れの滞りが長期に渡った場合は、早期に供給できなくなることを意味します。
【参考文献】
*1 農林水産省(2003)「米穀の需給及び価格の安定に関する基本指針(令和5年7月31日)」, 3-4頁,
https://www.maff.go.jp/j/seisan/keikaku/beikoku_sisin/attach/pdf/index-13.pdf
(アクセス日2024年1月23日)
*2 農林水産省「米の相対取引価格・数量、契約・販売状況、民間在庫の推移等」, 民間在庫の推移(速報),
https://www.maff.go.jp/j/seisan/keikaku/soukatu/aitaikakaku.html
(アクセス日2024年1月23日)
*3 財務省 財務総合政策研究所「法人企業統計調査からみる日本企業の特徴」,(3)企業の効率性, ⑭棚卸資産回転期間,
https://www.mof.go.jp/pri/reference/ssc/japan/japan02_14.pdf
(アクセス日2024年1月23日)
*4 財務省 財務総合政策研究所「財政金融統計月報第835号」, 令和2年度統計表 食料品製造業及び飲食サービス業,
https://www.mof.go.jp/pri/publication/zaikin_geppo/hyou/g835/835.html
(アクセス日2024年1月23日)
*5 財務省 財務総合政策研究所「財政金融統計月報第846号」, 令和3年度統計表 食料品製造業及び飲食サービス業,
https://www.mof.go.jp/pri/publication/zaikin_geppo/hyou/g846/846.html
(アクセス日2024年1月23日)
*6 株式会社ライフコーポレーション「2023年2月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」,
http://www.lifecorp.jp/vc-files/pdf/ir/financial_results/2023.4Q.pdf
(アクセス日 2024年1月23日)
*7 株式会社マルエツ「第71期決算公告(2023年2月期)」,
https://www.maruetsu.co.jp/wp-content/uploads/2023/05/kessann71.pdf
(アクセス 日2024年1月23日)
*8 株式会社マルエツ「第70期決算公告(2022年2月期)」,
https://www.maruetsu.co.jp/wp-content/uploads/2023/04/kessann70.pdf
(アクセス日2024年1月23日)
*9 株式会社いなげや「2023年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」,
https://www.inageya.co.jp/ir/pdf/20230509KT4Q_03.pdf
(アクセス日2024年1月23日)
*10 株式会社日本アクセス「決算公告 第71期決算公告 2023年3月期」,
https://www.nippon-access.co.jp/files/topics/637_ext_02_0.pdf
(アクセス日2024年1月23日)
*11 株式会社日本アクセス「決算公告 第70期決算公告 2022年3月期」,
https://www.nippon-access.co.jp/files/topics/523_ext_02_0.pdf
(アクセス日2024年1月23日)
*12 三菱食品株式会社「2023年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」,
https://ssl4.eir-parts.net/doc/7451/tdnet/2273828/00.pdf
(アクセス日2024年1月23日)
*13 加藤産業株式会社「2022年9月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」,
https://www.katosangyo.co.jp/irinfo/library/pdf/01_2022_04.pdf
(アクセス日2024年1月23日)
食料危機対策の必要性(4)食料危機対策の最終手段はサツマイモ栽培⁉
みなさん、こんにちは。
政府は食料危機への対策として「緊急事態食料安全保障指針」を策定しています。政府備蓄の放出以外にも物価統制や配給など様々な対応がなされますが、深刻な食料不足に陥った場合、日本中でサツマイモを栽培するつもりのようです。果たして、それで食料不足は解消するのでしょうか。
・緊急事態食料安全保障指針
政府は不測の事態により食料供給に影響がある場合、最低限必要な食料を確保するために、「緊急事態食料安全保障指針」*1に基づき食料の増産や流通の制限などの施策を行うことになっています。
同指針は農林水産省が不測の事態に備えて食料供給の確保を図るための対策やその実施手順を策定したもので、平素からの取り組みに加え、緊急時の対策をレベル0~2の類型に分けて示しています。平素からの取組は、「食料自給率」の向上に加え、「食料自給力指標」の維持向上を基本として、適切かつ効率的な備蓄や安定的な輸入確保、情報収集・分析・提供などを行うものです。
■平素からの取組
出典:農林水産省作成*2より著者作成
・食料自給力指標
食料自給力指標というのは、聞き慣れない言葉かもしれません。これは「我が国の農地等の農業資源、農業者、農業技術といった潜在生産能力をフル活用することにより得られる食料の供給熱量を示す」指標であり、栄養バランスを考慮しつつ、熱効率を最大化して作付けするものです*3。2015年3月の「食料・農業・農村基本計画」で初めて示され、毎年公表されています。
■⾷料⾃給⼒指標の考え⽅
出典:農林水産省作成*4
食料自給力指標には、米・小麦を中心に作付けした場合といも類を中心に作付けした場合の2つのパターンがあります。米・小麦中心の作付けの場合、二毛作可能な田畑では裏作で小麦を作る、牧草地など非食用地の食用地への転換など*5を実施します。いも類中心の作付けの場合、乾田(汎用田)や牧草地、普通畑からサツマイモやジャガイモなどへの転換、二毛作可能な田畑では裏作で野菜を作るなど*6を実施します。
2022年度の食料自給力指標では、推定エネルギー必要量(2,168kcal/人/日)に対して、いも類中心の作付けでは2,368(kcal/人/日)と上回るものの、米・小麦中心の作付けでは1,720(kcal/人/日)と下回っています。
■2022年度⾷料⾃給⼒指標
出典:農林水産省作成*7
・不測の事態の深刻度に応じた対応
「緊急事態食料安全保障指針」では、緊急時の対策として三つのレベル0~2に応じた対応を設定しています*8。レベル0は緊急時の初期段階であり、レベル1以降の事態に発展するおそれがないか情報収集や監視などを行います*9。
レベル1~2になると事態は深刻となります。レベル1では、最低限度の熱量供給が困難となるおそれはないものの、食生活に重大な影響が生じる可能性がある事態です。目安は翌年における特定の品目の供給が平時の供給を2割以上下回る場合となります。施策は緊急増産・生産資材の確保対策・適正な流通確保の指示・価格規制など強い経済統制ではなく市場メカニズムを基本としたものとなります*10。
レベル2では、最低限度の熱量供給が困難となるおそれのある極めて深刻な事態となります。目安は翌年における供給熱量が2,000(kcal/人/日)を下回ると予測される場合となります。これはすべての品目で供給が概ね2割減少した場合に相当します。施策は熱供給量の高い作物への生産転換、既存農地以外の土地利用、割当て・配給実施、物価統制令による価格統制、石油供給減少への対応策などになります*11。
■不測の事態の深刻度に応じた対応
出典:農林水産省作成*2より著者作成
輸入途絶などにより食料供給が大幅減少となる場合は、レベル2と判定されると考えられますが、レベル2では、熱供給量の高い作物への生産転換、既存農地以外の土地利用が対策とされており、食料自給力指標で示されるような潜在的食料生産能力をフル活用していく体制を目指すことになります。
しかし、食料自給力指標は、その試算前提として生産転換に要する期間は考慮されておらず、飼料を除く生産要素(肥料、農薬、化石燃料など)が国内の生産に十分な量が確保され、農業水利施設等の機能が持続的に発揮されていることが前提になっています*12。したがって、同指針の実効性の評価にはこの前提を考慮する必要があります。
・緊急事態食料安全保障指針の実効性
同指針の前身となる「不測時における食料安全保障マニュアル」の対策は、「単に青写真(考え方)を描いたものに過ぎず、スイスのように実行するための担保措置がとられていない」と食料安全保障に関する研究会による報告書では指摘されています*13。基本的な内容を引き継いでいる「緊急事態食料安全保障指針」でも、「自立的具体策に肝心な「どこで・何を・どれだけ」行うかの提示はなく、作業員者確保においても具体性はない」ことから、緊急時における指針として内容の具体性の乏しさが研究者から指摘されています*14。
政府は2023年8~12月に「不測時における食料安全保障に関する検討会」を開催し、不測時の法整備などの検討を行っています*15。有事で輸入が止るなどの事態に備えての食料増産命令などの法整備であるとの報道*16もありますが、同指針など施策の実効性確保はこれからの対応になるようです。
とはいえ、レベル2で主力施策となる熱供給量の高い作物への生産転換一つとっても、実際には、地域別・季節別の対応、種いもや苗の増産分の確保、さらに必要な場合は排水工事や土壌改良などの対応も必要です。有事によるシーレーン封鎖などのため、石油などのエネルギー供給が大幅に減少すれば、農業機械の使用も制限されます。その場合は、人力対応での労働力確保に加え、農具の確保も必要となります。
また、エネルギー供給減少は軽油やガソリンの供給減少となるため、物流も制限されます。限られた運送能力で、地方から都市部へ食料を運送する必要があります。以上から、とくに有事のような厳しい事態の場合は、レベル2の実行は、極めて困難を伴うものと考えられます。
・食料危機は日本の危機
食料危機が発生するような状況は、エネルギー不足や物流の停滞など日本経済全般が危機に陥っている可能性が高い状況と考えられます。逆に、日本経済全体の危機の一側面が食料危機であるともいえます。そのため、食料危機対策はエネルギー、物流、ライフライン、防衛面なども含めた包括的な対策とする必要があるといえます。しかし、政府の対策は包括的な対策とはなっていません。
例えば、有事により石油を輸入するシーレーンが封鎖された場合や大規模自然災害で石油精製施設や国内物流網の機能が大幅に低下した場合は、国内物流が著しく制限されます。国内貨物部門のエネルギー源の89.9%が軽油とガソリンであり(2020年度)*17、農業機械の燃料もガソリンや軽油といった石油系が大部分です。また、都市部の食料自給率は、東京都0%、大阪府1%、神奈川県2%(2021年度概算値)と著しく低い状況です*18。主要な生産地である地方から都市部への物流なしには食料危機対策になり得ませんが、物流面全体の対策は具体性に乏しい状況です。
日本の石油備蓄は、2023年11月末現在、国家備蓄・民間備蓄・産油国共同備蓄の合計で240日分と7.9ヶ月分あります*19。しかし、この備蓄が尽きてくる事態になれば、とくに食料輸送全般が困難になることで、政府の対策に大きな支障が生じると考えられます。
■運輸部門のエネルギー源別消費の推移
出典:資源エネルギー庁作成*17(「総合エネルギー統計」を基に作成。「総合エネルギー統計」は、1990年度以降、数値の算出方法が変更されている。)
・不十分な政府の食料危機対策
政府の食料危機対策は、以上のように、実効性確保が遅れていることもあり、食料危機が大規模化・長期化した場合は、目標とする供給熱量2,000(kcal/人/日)の基準確保は困難と考えられます。そのため、各家庭における自助により不足分を補う必要が出てきます。また、自助できる家庭が多ければ、地域コミュニティにおける共助も可能となってきます。
【参考文献】
*1 農林水産省(2021)「緊急事態食料安全保障指針」,
https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/anpo/attach/pdf/shishin-16.pdf
(アクセス日2024年1月21日)
*2 農林水産省(2022)「知ってる? 日本の食料事情 2022 ~食料自給率・食料自給力と食料安全保障~」, 23頁,
https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/attach/pdf/panfu1-12.pdf
(アクセス日2024年1月21日)
*3 農林水産省(2022)「食料・農業・農村基本計画 ~ 我が国の食と活力ある農業・農村を次の世代につなぐために ~」, 19-20頁,
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/k_aratana/attach/pdf/index-13.pdf
(アクセス日2024年1月21日)
*4 農林水産省「令和4年度食料自給力指標について」, 1頁,
https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/attach/pdf/012_1-5.pdf
(アクセス日2024年1月21日)
*5 農林水産省「食料自給率目標と食料自給力指標について」, 20頁,
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/k_aratana/attach/pdf/index-10.pdf
(アクセス日2023年8月26日)
*6 農林水産省「食料自給率目標と食料自給力指標について」, 21頁,
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/k_aratana/attach/pdf/index-10.pdf
(アクセス日2024年1月21日)
*7 農林水産省「令和4年度食料自給力指標について」, 3頁,
https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/attach/pdf/012_1-5.pdf
(アクセス日2024年1月21日)
*8 農林水産省(2021)「緊急事態食料安全保障指針」, 13-14頁,
https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/anpo/attach/pdf/shishin-16.pdf
(アクセス日2024年1月21日)
*9 農林水産省(2021)「緊急事態食料安全保障指針」, 19-21頁,
https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/anpo/attach/pdf/shishin-16.pdf
(アクセス日2024年1月21日)
*10 農林水産省(2021)「緊急事態食料安全保障指針」, 22-25頁,
https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/anpo/attach/pdf/shishin-16.pdf
(アクセス日2024年1月21日)
*11 農林水産省(2021)「緊急事態食料安全保障指針」, 26-29頁,
https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/anpo/attach/pdf/shishin-16.pdf
(アクセス日2024年1月21日)
*12 農林水産省(2020)「⾷料⾃給⼒指標の⼿引き」, 3頁,
https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/attach/pdf/012_1-11.pdf
(アクセス日2024年1月21日)
*13 食料安全保障に関する研究会(2010)「我が国の「食料安全保障」への新たな視座」, 19頁,
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/food_security/pdfs/report1009.pdf
(アクセス日2024年1月21日)
*14 青山貴洋(2015)「日本の食料安全保障政策における課題と解決に向けた一考察 : 農地と生産者問題からみた食料安全保障政策と緊急事態食料安全保障指針分析」『公共政策志林』, 第3巻, 74頁,
http://doi.org/10.15002/00012114
(アクセス日2024年1月21日)
*15 農林水産省「不測時における食料安全保障に関する検討会」,
https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/anpo/kentoukai.html
(アクセス日2023年9月10日)
*16 朝日新聞(2024年1月21日)「有事に食料不足→価格統制や増産命令、強制力伴う法整備へ」,
https://www.asahi.com/articles/ASR5B4RKPR51ULFA00S.html
(アクセス日2024年1月21日)
*17 資源エネルギー庁(2022)「令和3年度エネルギーに関する年次報告 (エネルギー白書2022)」, 第212-3-9, 82頁,
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2022/pdf/2_1.pdf
(アクセス日2024年1月21日)
*18 農林水産省「令和3年度(概算値)、令和2年度(確定値)の都道府県別食料自給率」,
https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/attach/pdf/zikyu_10-2.pdf
(アクセス日2024年1月21日)
*19 資源エネルギー庁燃料供給基盤整備課(2024年1月)「石油備蓄の現況」, 令和5年11月末現在,
https://www.enecho.meti.go.jp/statistics/petroleum_and_lpgas/pl001/pdf/2024/240115oil.pdf
(アクセス日2024年1月21日)