食料危機対策ch

~家庭における食料危機対策支援ブログ~

食料危機対策の必要性(2)輸入途絶に耐えられない食料自給率

みなさん、こんにちは。
日本の食料自給率は低いということは、よく知られていることです。しかし、世間で認識されているより実際の自給率はもっと低いようです。また、そのような状況で輸入が途絶したとき我々日本人は一体どうなるのでしょうか。


◇夏の水田風景。2023年の日本の水稲生産量はピーク時の半分弱661万トンである


・日本の食料自給率
日本の食料自給率は、カロリーベースで38%(2022年度)*1農林水産省から発表されています。しかし、研究者からは食料自給率はもっと低いとの指摘もあります。

山田五郎名誉教授(愛知大学)は、投入法カロリーベース食料自給率により実際の食料自給率は18%であると指摘しています*2。これは、経口食料の熱量だけではなく、畜産飼料のように生産に投入された熱量も合わせた数値となります。さらに、鈴木宣弘教授(東京大学)は、肥料や種子などの自給率も考慮すると10%に達するか否かという水準ではないか*3と指摘しています。このような低い食料自給率は人口1億人超の国では異例であり、小国のような輸入依存体質となっています。

また、化学肥料の製造原料であり肥料の三大要素となる窒素、りん酸、カリウムについて、日本はほぼ輸入に頼っています*4穀物や果樹の種子や苗はほぼ国産ですが、野菜の種子の約9割は海外生産となっています*5。このように日本は食料や関連資材の多くを輸入に依存しているため、輸入が大幅に減少した場合、早晩、食料危機に陥る状況といえます。

・輸入途絶時の影響
極端な例ですが、もし、食料が輸入途絶した場合、どのような影響が出るでしょうか。ここでは、供給熱量と必要熱量を比較することでその影響を調べてみました。

まず、①日本の人口(2022年10月1日現在/0歳児を除く/国内滞在期間が3ヶ月を超える外国人を含む)*6、②推定エネルギー必要量(身体活動レベルふつう)*7、③基礎代謝*8をもとに、1人あたりの平均推定エネルギー必要量と基礎代謝量を算出しました(年齢別による加重平均値)。基礎代謝量とは安静な状態で消費される最低限のエネルギー量のことです。その結果、一人あたり推定エネルギー必要量は2,168(kcal/日)、基礎代謝量は1,258(kcal/日)となりました。

一方で、2022年度の1人あたりの供給熱量は2,260(kcal/日)、うち国産供給熱量は850(kcal/日)となります*9。1人あたりの供給熱量は、推定エネルギー必要量を上回っていますが、国産食料だけで供給した場合は、推定エネルギー必要量の39%、基礎代謝量でも68%しか供給できません。これでは、全人口に対し必要量に応じて平等に供給した場合、計算上は全員生存できないことになってしまいます。

なお、供給熱量は消費者に届いた熱量であり、実際に摂取された熱量ではない点に留意する必要があります。そのため、実際に摂取された熱量と必要量とで比較した場合は、もっと厳しい数値となります。


■1人あたりの熱供給量及び必要量

出典:厚生労働省*7及び農林水産省*7*8*9資料から著者作成


【参考文献】
*1 厚生労働省「総合食料自給率(カロリー・生産額)、品目別自給率等」,
  https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/012.html
  (アクセス日2024年1月8日)
*2 高橋五郎(2023)「食料危機の未来年表」, 朝日新聞出版,81-84頁
*3 鈴木宣弘(2023)「深刻な食料・農業危機の現状と打開策」『共済総合研究』, 第86号, 74頁,
  https://www.jkri.or.jp/PDF/2022/sogo_86suzuki.pdf
  (アクセス日2024年1月8日)
*4 農林水産省(2022)「みどりの食料システム戦略の実現に向けて」, 8頁,
  https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/midori/attach/pdf/houritsu-35.pdf
  (アクセス日2024年1月8日)
*5 鈴木宣弘(2022)『世界で最初に飢えるのは日本』, 講談社, 20頁
*6 厚生労働省(2022)「人口推計(2022年(令和4年)10月1日現在)」, 統計表, 第一表, 18-19頁,
  https://www.stat.go.jp/data/jinsui/2022np/pdf/2022tables.pdf
  (アクセス日2024年1月8 日)
*7 農林水産省(2020)「日本人の食事摂取基準」策定検討会「日本人の食事摂取基準(2020年版)」, 表5, 74頁,
  https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf
  (アクセス日2024年1月8 日)
*8 農林水産省「日本人の食事摂取基準」策定検討会(2020)「日本人の食事摂取基準(2020年版)」, 参考表2, 84頁,
  https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf
  (アクセス日2024年1月8 日)
*9 農林水産省「令和4年度食料自給率について」, 7頁,
  https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/attach/pdf/012-5.pdf
  (アクセス日2024年1月8日)

食料危機対策の必要性(1) 物流ストップ!そのとき日本は食料危機に陥る

みなさん、こんにちは。
先進国である日本で食料危機が発生するようなことは、現状では考えにくいと思います。しかし、食料やエネルギーの多くを輸入に頼り、自然災害の多い日本は、将来、食料危機が発生するリスクの高い国ともいえます。それでは、どのような場合に日本で食料危機が発生するのでしょうか。


◇近年出版された食料危機、震災、有事関係の出版物


・食料危機の発生要因
食料危機や食料安全保障の議論においては、様々な分析の切り口があります。大きな切り口としては、経済的アクセス/物理的アクセスの2つの要素に分ける*1、平時/有事の2つの次元に分け、さらに有事のシナリオとして輸入途絶/国内生産障害に大別(その同時発生も想定)する*2などがあります。

日本は経済大国であり、また、グローバル経済の発展した現在、経済的アクセスや平時における問題により食料危機が発生する可能性は低いといってよいでしょう。しかし、食料やその生産・加工・物流を支えるエネルギーの「物流」に大きな滞りが生じれば、食料危機が発生します。有事発生で輸入が大幅に減少する、または大規模自然災害で国内の物流が長期間停滞するような場合などです。この場合、急激に食料危機に陥る可能性があり、事前の対策準備なしには対処が困難です。

農林水産省によるリスク検証
農林水産省ではリスクマネジメントの国際基準「ISO31000」に準拠して、食料の安定供給に影響を及ぼす可能性のある様々な要因(リスク)を洗い出し、包括的な検証をすることで食料の安定供給に関するリスク検証を行っています*3。この検証は、近年の新型コロナウイルスの感染拡大やロシアによるウクライナ侵攻などの新たなリスク発生による食料安全保障上の懸念の高まりから実施されたものです。

同検証では対象として食品27品目を基本とした上で、食品産業(4業種)と林業の品目も加えた32品目を対象とし、食品に関しては国内リスク10種と海外リスク15種をリスク選定してリスクの分析、評価を行っています。

検証の結果、食品27品目に関して重要なリスクとして指摘されたのは、輸入品の価格高騰のリスク(飼料穀物、小麦、大豆、なたねなど)、労働力・後継者不足のリスク(果実、野菜、畜産物、水産物など)、生産資材の価格高騰等のリスク(肥料、燃油費の高い品目)、温暖化や高温化のリスク(水産物)、家畜伝染病のリスクとなっています*4

また、食品産業に関して重要なリスクとして指摘されたのは、国内におけるリスクでは、需要急変(外食産業)、サプライチェーンの混乱(食品卸売業、小売業)、海外におけるリスクでは、輸入原材料の減少/価格高騰/品質劣化となっています*5

重要なリスクには輸入や国内物流と関連の深いリスクが多いことが窺える結果となっており、同検証からも「物流」の重要性が分かります。

なお、同検証では国内におけるリスクの原因事象として有事は対象外となっています。これは日本が当事国となるような有事であり、発生すれば輸入や国内物流に深刻な影響が発生することは明らかです。近年の有事リスクの高まりを考慮すれば、重要リスクとして認識する必要があるといえます。


【参考文献】
*1 山下一仁(2022)『日本が飢える!世界食料危機の真実』, 幻冬舎, 212頁
*2 食料安全保障に関する研究会(2010)「我が国の「食料安全保障」への新たな視座」, 13-14頁,
  https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/food_security/pdfs/report1009.pdf
   (アクセス日2024年1月8日)
*3 農林水産省(2022)「「食料の安定供給に関するリスク検証(2022)」の公表について」,
  https://www.maff.go.jp/j/press/kanbo/anpo/220621_14.html
  (アクセス日2024年1月8日)
*4 農林水産省(2022)「食料の安定供給に関するリスク検証(2022)」, 31-32頁
  https://www.maff.go.jp/j/press/kanbo/anpo/attach/pdf/220621_14-8.pdf
  (アクセス日2024年1月8日)
*5 農林水産省(2022)「食料の安定供給に関するリスク検証(2022)」, 44-45頁
  https://www.maff.go.jp/j/press/kanbo/anpo/attach/pdf/220621_14-8.pdf
  (アクセス日2024年1月8日)

本ブログの利用法について

みなさん、こんにちは。
本ブログは、みなさんに食料危機対策の必要性をご理解いただき、その上で本ブログ情報を参考にライフスタイルとして食料危機対策を実践いただくというものになります。以下、利用法などについて説明します。

・「食料危機」とは
まず、説明に入る前に本ブログのタイトルにもある「食料危機」の意味を確認しましょう。

「食料危機」とは、字句通りにいえば食料不足により危機的状況になることだといえます。「食料」は穀物・肉・魚介類・野菜など食料全般のことになります。主食となる穀物を指す「食糧」とは使い分けされています。

「危機」の状況については、統一的な定義がある訳ではありませんが、日本においては、農林水産省が「緊急事態食料安全保障指針」(2021年7月1日一部改正)で設定している最も深刻度の高い緊急時のレベル2の判定基準の目安となる1人1日当たり供給熱量2,000kcalを下回る場合が、危機的な状況の目安となるでしょう。これは、現状から概ね2割減少した水準となります*1

同指針では、深刻な食料不足が解消された昭和20年代後半の供給熱量の実績を踏まえ、それだけの供給熱量があれば、国民生活または国民経済に著しい支障が生じることはないことをその根拠としています。

なお、同指針の供給熱量2,000kcalは日本人の平均値です。しかし、必要となる熱量は年齢・性別など個人により異なりますので、参考として、以下に「「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書」*2による推定エネルギー必要量をあげておきます。

■推定エネルギー必要量(kcal/日)

出典:厚生労働省「日本人の食事摂取基準」策定検討会作成*2

・食料危機対策の手法
食料危機対策は、リスクマネジメントの一種とも捉えることができます。リスクとは被害の程度や可能性であり、リスクマネジメントとは「リスクを組織的に管理(マネジメント)し、損失等の回避又は低減を図るプロセス」をいいます*3

リスクマネジメントは、一般的には政府や企業など組織で利用されますが、家庭における食料危機対策においてもその手法を応用することは可能です。本ブログでは、このリスクマネジメントの手法を参考にして、情報提供をするものです。

・構成
本ブログの構成は、主に「食料危機対策の必要性」と「食料危機対策」の二つのカテゴリーに分かれます。「食料危機対策の必要性」と「食料危機対策」は、リスクマネジメントにおいては、それぞれ「リスクアセスメント(リスクの特定・分析・評価をするプロセス)」と「リスク対策」に相当します。

「食料危機対策の必要性」では、まず現状把握として日本の食料自給率、政府による食料危機対策、民間企業の在庫状況を分析し、日本の食料危機に対する脆弱性を明らかにします。次いで、食料危機発生の原因となる可能性の高い2つの事象、有事と大規模自然災害(地震・噴火など)の影響について考察します。

リスクアセスメントにおいてはリスクの特定が重要となります。リスクを適切に特定できなければ、その後の分析、評価、さらに対策も適切に行うことはできないからです。リスクの規模や切迫性の理解は、食料危機対策の実践の決断にも関わってきます。そこで、「食料危機対策の必要性」では食料危機発生の原因について特に説明を増やし、具体的に掘り下げて解説します。

「食料危機対策」では、特定されたリスクを踏まえて家庭における食料危機対策について実践的な情報を提供していきます。内容としては、家庭菜園、食料備蓄、食べられる山野草、献立、調理用エネルギーなどを予定しています。対策分野ごとにタグを付けますので、興味のある分野から読んでいただくことで事典のような利用も可能です。

各記事の終わりに「参考文献」を掲載しています。できるだけ入手が容易な文献を掲載していますので、さらに理解されたい方はぜひ利用ください。

・対策の実践
対策の実践は、みなさん自身でしていただくことになります。対策は危機発生後に初めて行うことはではなく、危機発生前からライフスタイルとして日常的に実践いただき、危機の低減・回避などを図っていくことが基本となります。

また、日常的な実践の中で対策の効果を検証し、改善していくことも重要です。季節毎に食事に使う食材や燃料をすべて家庭菜園や備蓄で賄ってみると、不足や不効率な部分がみえてくるはずです。

本ブログの情報はあくまでも参考です。みなさん自身の状況に合わせて本ブロクの情報を応用し、必要な対策を行っていただければ幸いです。


【参考文献】
*1 農林水産省(2021) 「緊急事態食料安全保障指針」, 13-14頁,
  https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/anpo/attach/pdf/shishin-16.pdf
  (アクセス日2024年1月8日)
*2 厚生労働省 「日本人の食事摂取基準」策定検討会(2019) 「「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書」, 参考表2, 84頁,
  https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf
  (アクセス日2024年1月8日)
*3 中小企業庁(2016) 「中小企業白書(2016年版)」, 225頁
  https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H28/PDF/chusho/04Hakusyo_part2_chap4_web.pdf
  (アクセス日2024年1月8日)

開設のご挨拶

みなさん、こんにちは。食料危機対策アドバイザーの藤澤啓です。

 

食料危機とは、食料不足により危機的状況になることです。現在、世界では紛争や経済低迷、気候変動などにより食料危機が広がっています。日本においても、2022年のロシアによるウクライナ侵攻に伴う食料高騰や日本周辺での有事リスクの高まりを受けて、専門家により食料危機リスクの高まりが指摘され始めました。

 

日本は食料自給率がカロリーベースで38%(2022年)と人口1億人を超える国としては、極めて低水準です。食料の生産・加工・物流を支えるエネルギー自給率もわずか13.3% (2021年) しかありません。これは、有事や大規模自然災害などにより食料やエネルギーの物流に大規模な支障が生じた場合に、容易に食料危機に陥る状況といえます。

 

このような状況に対して、政府は様々な取り組みを行っています。しかし、構造的な問題や予算などの制約のため、食料・エネルギーの自給率や政府備蓄量の十分な向上は、すぐには見込めない状況です。

 

一方で、政府は食料供給に影響が及ぶおそれのある不測の事態に備えて、「緊急事態食料安全保障指針」を策定しています。これは、事態の深刻度に応じた対策を定めたものですが、実効性の確保が不十分であり、食料危機が発生した際には十分機能しないと考えられます。

 

そのため、食料危機に際しては、政府による公助に多くは期待できません。自助による事前の対策が重要となります。また、自助できる国民が増えれば、共助も容易になります。

 

このような現状を鑑みて、家庭菜園・食料備蓄など家庭向けの食料危機対策を支援するために本ブログを開設いたしました。

 

本ブログの活用により、一人でも多くの日本人が、この困難な時代を乗り越えていけることを願ってやみません。

 

  2024年1月11日

                                藤澤啓