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~家庭における食料危機対策支援ブログ~

食料危機対策の必要性(4)食料危機対策の最終手段はサツマイモ栽培⁉

みなさん、こんにちは。
政府は食料危機への対策として「緊急事態食料安全保障指針」を策定しています。政府備蓄の放出以外にも物価統制や配給など様々な対応がなされますが、深刻な食料不足に陥った場合、日本中でサツマイモを栽培するつもりのようです。果たして、それで食料不足は解消するのでしょうか。


◇食料危機対策の最終手段はサツマイモが主力となる(写真はシルクスイート


・緊急事態食料安全保障指針
政府は不測の事態により食料供給に影響がある場合、最低限必要な食料を確保するために、「緊急事態食料安全保障指針」*1に基づき食料の増産や流通の制限などの施策を行うことになっています。

同指針は農林水産省が不測の事態に備えて食料供給の確保を図るための対策やその実施手順を策定したもので、平素からの取り組みに加え、緊急時の対策をレベル0~2の類型に分けて示しています。平素からの取組は、「食料自給率」の向上に加え、「食料自給力指標」の維持向上を基本として、適切かつ効率的な備蓄や安定的な輸入確保、情報収集・分析・提供などを行うものです。

■平素からの取組

出典:農林水産省作成*2より著者作成

・食料自給力指標
食料自給力指標というのは、聞き慣れない言葉かもしれません。これは「我が国の農地等の農業資源、農業者、農業技術といった潜在生産能力をフル活用することにより得られる食料の供給熱量を示す」指標であり、栄養バランスを考慮しつつ、熱効率を最大化して作付けするものです*3。2015年3月の「食料・農業・農村基本計画」で初めて示され、毎年公表されています。

■⾷料⾃給⼒指標の考え⽅

出典:農林水産省作成*4

食料自給力指標には、米・小麦を中心に作付けした場合といも類を中心に作付けした場合の2つのパターンがあります。米・小麦中心の作付けの場合、二毛作可能な田畑では裏作で小麦を作る、牧草地など非食用地の食用地への転換など*5を実施します。いも類中心の作付けの場合、乾田(汎用田)や牧草地、普通畑からサツマイモやジャガイモなどへの転換、二毛作可能な田畑では裏作で野菜を作るなど*6を実施します。

2022年度の食料自給力指標では、推定エネルギー必要量(2,168kcal/人/日)に対して、いも類中心の作付けでは2,368(kcal/人/日)と上回るものの、米・小麦中心の作付けでは1,720(kcal/人/日)と下回っています。

■2022年度⾷料⾃給⼒指標

出典:農林水産省作成*7

・不測の事態の深刻度に応じた対応
「緊急事態食料安全保障指針」では、緊急時の対策として三つのレベル0~2に応じた対応を設定しています*8。レベル0は緊急時の初期段階であり、レベル1以降の事態に発展するおそれがないか情報収集や監視などを行います*9

レベル1~2になると事態は深刻となります。レベル1では、最低限度の熱量供給が困難となるおそれはないものの、食生活に重大な影響が生じる可能性がある事態です。目安は翌年における特定の品目の供給が平時の供給を2割以上下回る場合となります。施策は緊急増産・生産資材の確保対策・適正な流通確保の指示・価格規制など強い経済統制ではなく市場メカニズムを基本としたものとなります*10

レベル2では、最低限度の熱量供給が困難となるおそれのある極めて深刻な事態となります。目安は翌年における供給熱量が2,000(kcal/人/日)を下回ると予測される場合となります。これはすべての品目で供給が概ね2割減少した場合に相当します。施策は熱供給量の高い作物への生産転換、既存農地以外の土地利用、割当て・配給実施、物価統制令による価格統制、石油供給減少への対応策などになります*11

■不測の事態の深刻度に応じた対応

出典:農林水産省作成*2より著者作成

輸入途絶などにより食料供給が大幅減少となる場合は、レベル2と判定されると考えられますが、レベル2では、熱供給量の高い作物への生産転換、既存農地以外の土地利用が対策とされており、食料自給力指標で示されるような潜在的食料生産能力をフル活用していく体制を目指すことになります。

しかし、食料自給力指標は、その試算前提として生産転換に要する期間は考慮されておらず、飼料を除く生産要素(肥料、農薬、化石燃料など)が国内の生産に十分な量が確保され、農業水利施設等の機能が持続的に発揮されていることが前提になっています*12。したがって、同指針の実効性の評価にはこの前提を考慮する必要があります。

・緊急事態食料安全保障指針の実効性
同指針の前身となる「不測時における食料安全保障マニュアル」の対策は、「単に青写真(考え方)を描いたものに過ぎず、スイスのように実行するための担保措置がとられていない」と食料安全保障に関する研究会による報告書では指摘されています*13。基本的な内容を引き継いでいる「緊急事態食料安全保障指針」でも、「自立的具体策に肝心な「どこで・何を・どれだけ」行うかの提示はなく、作業員者確保においても具体性はない」ことから、緊急時における指針として内容の具体性の乏しさが研究者から指摘されています*14

政府は2023年8~12月に「不測時における食料安全保障に関する検討会」を開催し、不測時の法整備などの検討を行っています*15。有事で輸入が止るなどの事態に備えての食料増産命令などの法整備であるとの報道*16もありますが、同指針など施策の実効性確保はこれからの対応になるようです。

とはいえ、レベル2で主力施策となる熱供給量の高い作物への生産転換一つとっても、実際には、地域別・季節別の対応、種いもや苗の増産分の確保、さらに必要な場合は排水工事や土壌改良などの対応も必要です。有事によるシーレーン封鎖などのため、石油などのエネルギー供給が大幅に減少すれば、農業機械の使用も制限されます。その場合は、人力対応での労働力確保に加え、農具の確保も必要となります。

また、エネルギー供給減少は軽油やガソリンの供給減少となるため、物流も制限されます。限られた運送能力で、地方から都市部へ食料を運送する必要があります。以上から、とくに有事のような厳しい事態の場合は、レベル2の実行は、極めて困難を伴うものと考えられます。

・食料危機は日本の危機
食料危機が発生するような状況は、エネルギー不足や物流の停滞など日本経済全般が危機に陥っている可能性が高い状況と考えられます。逆に、日本経済全体の危機の一側面が食料危機であるともいえます。そのため、食料危機対策はエネルギー、物流、ライフライン、防衛面なども含めた包括的な対策とする必要があるといえます。しかし、政府の対策は包括的な対策とはなっていません。

例えば、有事により石油を輸入するシーレーンが封鎖された場合や大規模自然災害で石油精製施設や国内物流網の機能が大幅に低下した場合は、国内物流が著しく制限されます。国内貨物部門のエネルギー源の89.9%が軽油とガソリンであり(2020年度)*17、農業機械の燃料もガソリンや軽油といった石油系が大部分です。また、都市部の食料自給率は、東京都0%、大阪府1%、神奈川県2%(2021年度概算値)と著しく低い状況です*18。主要な生産地である地方から都市部への物流なしには食料危機対策になり得ませんが、物流面全体の対策は具体性に乏しい状況です。

日本の石油備蓄は、2023年11月末現在、国家備蓄・民間備蓄・産油国共同備蓄の合計で240日分と7.9ヶ月分あります*19。しかし、この備蓄が尽きてくる事態になれば、とくに食料輸送全般が困難になることで、政府の対策に大きな支障が生じると考えられます。

■運輸部門のエネルギー源別消費の推移

出典:資源エネルギー庁作成*17(「総合エネルギー統計」を基に作成。「総合エネルギー統計」は、1990年度以降、数値の算出方法が変更されている。)

・不十分な政府の食料危機対策
政府の食料危機対策は、以上のように、実効性確保が遅れていることもあり、食料危機が大規模化・長期化した場合は、目標とする供給熱量2,000(kcal/人/日)の基準確保は困難と考えられます。そのため、各家庭における自助により不足分を補う必要が出てきます。また、自助できる家庭が多ければ、地域コミュニティにおける共助も可能となってきます。


【参考文献】
*1  農林水産省(2021)「緊急事態食料安全保障指針」,
   https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/anpo/attach/pdf/shishin-16.pdf
   (アクセス日2024年1月21日)
*2  農林水産省(2022)「知ってる? 日本の食料事情 2022 ~食料自給率・食料自給力と食料安全保障~」, 23頁,
   https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/attach/pdf/panfu1-12.pdf
   (アクセス日2024年1月21日)
*3  農林水産省(2022)「食料・農業・農村基本計画 ~ 我が国の食と活力ある農業・農村を次の世代につなぐために ~」, 19-20頁,
   https://www.maff.go.jp/j/keikaku/k_aratana/attach/pdf/index-13.pdf
   (アクセス日2024年1月21日)
*4  農林水産省「令和4年度食料自給力指標について」, 1頁,
   https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/attach/pdf/012_1-5.pdf
   (アクセス日2024年1月21日)
*5  農林水産省「食料自給率目標と食料自給力指標について」, 20頁,
   https://www.maff.go.jp/j/keikaku/k_aratana/attach/pdf/index-10.pdf
   (アクセス日2023年8月26日)
*6  農林水産省「食料自給率目標と食料自給力指標について」, 21頁,
   https://www.maff.go.jp/j/keikaku/k_aratana/attach/pdf/index-10.pdf
   (アクセス日2024年1月21日)
*7  農林水産省「令和4年度食料自給力指標について」, 3頁,
   https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/attach/pdf/012_1-5.pdf
   (アクセス日2024年1月21日)
*8  農林水産省(2021)「緊急事態食料安全保障指針」, 13-14頁,
   https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/anpo/attach/pdf/shishin-16.pdf
   (アクセス日2024年1月21日)
*9  農林水産省(2021)「緊急事態食料安全保障指針」, 19-21頁,
   https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/anpo/attach/pdf/shishin-16.pdf
   (アクセス日2024年1月21日)
*10 農林水産省(2021)「緊急事態食料安全保障指針」, 22-25頁,
   https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/anpo/attach/pdf/shishin-16.pdf
   (アクセス日2024年1月21日)
*11 農林水産省(2021)「緊急事態食料安全保障指針」, 26-29頁,
   https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/anpo/attach/pdf/shishin-16.pdf
   (アクセス日2024年1月21日)
*12 農林水産省(2020)「⾷料⾃給⼒指標の⼿引き」, 3頁,
   https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/attach/pdf/012_1-11.pdf
   (アクセス日2024年1月21日)
*13 食料安全保障に関する研究会(2010)「我が国の「食料安全保障」への新たな視座」, 19頁,
   https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/food_security/pdfs/report1009.pdf
   (アクセス日2024年1月21日)
*14 青山貴洋(2015)「日本の食料安全保障政策における課題と解決に向けた一考察 : 農地と生産者問題からみた食料安全保障政策と緊急事態食料安全保障指針分析」『公共政策志林』, 第3巻, 74頁,
    http://doi.org/10.15002/00012114
   (アクセス日2024年1月21日)
*15 農林水産省「不測時における食料安全保障に関する検討会」,
   https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/anpo/kentoukai.html
   (アクセス日2023年9月10日)
*16 朝日新聞(2024年1月21日)「有事に食料不足→価格統制や増産命令、強制力伴う法整備へ」,
    https://www.asahi.com/articles/ASR5B4RKPR51ULFA00S.html
   (アクセス日2024年1月21日)
*17 資源エネルギー庁(2022)「令和3年度エネルギーに関する年次報告 (エネルギー白書2022)」, 第212-3-9, 82頁,
   https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2022/pdf/2_1.pdf
   (アクセス日2024年1月21日)
*18 農林水産省「令和3年度(概算値)、令和2年度(確定値)の都道府県別食料自給率」,
   https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/attach/pdf/zikyu_10-2.pdf
   (アクセス日2024年1月21日)
*19 資源エネルギー庁燃料供給基盤整備課(2024年1月)「石油備蓄の現況」, 令和5年11月末現在,
   https://www.enecho.meti.go.jp/statistics/petroleum_and_lpgas/pl001/pdf/2024/240115oil.pdf
   (アクセス日2024年1月21日)