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~家庭における食料危機対策支援ブログ~

食料危機対策の必要性(3)政府備蓄は2ヶ月分で尽きる!

みなさん、こんにちは。
いざ食料危機となれば、政府備蓄が放出されるから大丈夫!と思っている方が多いのではないでしょうか。政府は食料危機にならないように様々な取組をしていますが、実際には、国内にはそれほど備蓄はないようです。それでは政府の対策は一体どうなっているのでしょうか。


◇田植え後の水田。米の政府備蓄は年間需要の約1.6ヶ月分となる91万トンしかない


・政府による食料安全保障に向けた取組の現状
政府は食料の安定的な供給のため、「国内の農業生産の増大」を基本に「輸入」と「備蓄」の適切な組み合わせを基本的な考えとして、食料安全保障の確立に向けた取組みをしています*1。食料安全保障とは、国の基本的な責務として「全ての国民が、将来にわたって良質な食料を合理的な価格で入手できるようにすること」*2です。

■食料安全保障の確立に向けた取組

出典:農林水産省資料*3から著者作成

・食料自給率向上
「国内の農業生産の増大」の取組対応の基本指標となるのは、食料自給率です。とくに食料安全保障の観点からは、カロリーベースの食料自給率が重要となります。政府は継続して食料自給率向上を目指す各種施策を行っていますが、カロリーベースの食料自給率は、2010年度以降は4割弱で停滞しています*4

食料自給率向上の困難さの背景には、人口に対して農地が少ないという根本的に不利な条件がある中で、食生活の変化やグローバル経済による国際分業の進展という構造的な問題があります。そのため食料自給率を大幅に向上させることは、極めて困難な状況となっています。

■供給熱量ベースの総合食料自給率(1965~2022年度)

出典:農林水産省資料から著者作成*4

・食料および関連資材の輸入
食料や関連資材に関しては、日本は米を除く穀物、飼料、畜産物、油脂類、砂糖類のほか*5、肥料、種子など多くを輸入に頼っていますが、その中でも穀物や肥料の輸入先は特定の国に偏っています。

■2021年度の食料消費構造

出典:農林水産省資料*5から著者作成

食料輸入に関しては、米国、カナダ、豪州の3ヶ国が日本の供給カロリーの43%占める主要輸入先となっています*6。 輸入先が特定国に偏っている問題はありますが、いずれも政情が安定しており、日本とは友好な関係を維持している輸入先です。

■我が国の供給カロリーの国別構成(試算)(2021年度)

出典:農林水産省資料*6から著者作成

一方で、肥料輸入に関しては、食料輸入以上に輸入先が偏っていることに加え、大気中にある窒素を除けば、資源の枯渇という問題があります。肥料は植物の生育に重要な三要素である窒素(N)、りん酸(P)、カリウム(K)の安定供給がとくに重要ですが、日本はその原料をほぼ輸入に頼っています。なお、三要素はどれか一つでも欠けると植物はうまく生育することができないため、バランスよく確保できることが重要です。

日本の農業は、化学肥料を使う慣行農法が耕地面積ベースで99.4%(2020年)を占めています*7。化学肥料を使わない有機農法では、慣行農法と比べ収量が20%程度低くなることが指摘されていることからも*8、食料の安定供給において、輸入による肥料の確保が非常に重要な役割を果たしていることが分かります。

主要な肥料原料の輸入相手国は、尿素(N)はマレーシアと中国、りん酸アンモニウム(N・P)は中国、塩化カリウム(K)はカナダであり、特定の国から大部分を輸入しています。

■化学肥料原料の輸入相手国、輸入量

出典:農林水産省資料(財務省「貿易統計」等を基に作成)*9から著者作成

このような輸入相手国の偏りは、安定供給がされないリスクが高いといえます。実際にロシアによるウクライナへの侵攻により、ロシアとベラルーシからの塩化カリウムの輸入は、激減しました。また、中国による輸出規制のため、りん酸アンモニウムの輸入は近年減少傾向となり、代替としてモロッコからの輸入を増やしています。

政府は経済安全保障推進法による備蓄数量目標の設定や民間備蓄の支援*10、化学肥料の使用量低減への取り組みのほか*11、外交的にはりん酸肥料の原料調達のためにモロッコへ農水副大臣を派遣するなどの努力もしています*12

しかし、政府による輸入相手国との良好な関係の維持・強化の努力にも関わらず、有事の発生などにより輸入が大幅に減少する可能性は少なからずあります。その場合は、輸入に頼ることはできなくなってしまいます。

・食料備蓄対応
政府は米、食糧用小麦、飼料穀物の備蓄を制度化しており、政府備蓄と民間備蓄により対応しています*13

■日本における穀物等の備蓄(備蓄水準とその考え方)

出典:農林水産省資料*13から著者作成(大豆の備蓄制度は廃止のため省略)

米については、政府は適正備蓄水準を主食用として備蓄しており、近年は91万トンで推移しています。主食用米の需要見通しは、680万トン(玄米・2023/2024年度)*14となっているので、備蓄水準は年間需要の約1.6ヶ月分に相当します。これは10年に一度の不作や通常程度の不作が2年連続発生したときに備えるためのものです。

■政府備蓄米の6月末在庫の推移

出典:農林水産省資料(国産うるち玄米の数量)*15から著者作成

輸入品については、小麦は民間企業が備蓄を行い、政府がその保管料を助成しています。政府は総需要量562万トン(2023年度)の見通しに対して、外国産食糧用小麦の需要量の2.3ヶ月分となる89万トンを備蓄水準としています*16。さらに海上輸送中のものが約2ヶ月分あります。また、飼料穀物海上輸送中のものと合わせて約100万トン(需要の2ヶ月分程度)の備蓄水準となります。適正備蓄水準は、食糧用小麦、飼料穀物ともに不作や港湾ストライキなどの不測時に対応して、代替輸入先からの輸入を確保するまでの期間をもとに設定されています。

肥料については、経済安全保障推進法(2022年12月施行)に基づき、政府は年間需要量の3ヶ月分相当の備蓄(りん酸アンモニウム/塩化カリウム)に向けての取り組みを開始しました。備蓄は民間企業が行い、政府はその保管料などを助成します*17

政府による備蓄制度は、以上のように米は国内生産の不作対応、輸入小麦・飼料、肥料は、輸入減少時の代替輸入先確保期間の繋ぎ対応のためのものです。国内備蓄は2ヶ月分程度しかないため(海上輸送中は含めず)、想定を超えるような米の不作や食料輸入の長期に渡る大幅減少があれば、当然、対応は困難になります。


【参考文献】
*1  「食料・農業・農村基本法」第2条2項
   https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=411AC0000000106
   (アクセス日2024年1月17日)
*2  農林水産省「食料安全保障とは」,
   https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/anpo/1.html
   (アクセス日2024年1月17日)
*3  農林水産省「知ってる? 日本の食料事情 2022 ~食料自給率・食料自給力と食料安全保障~」,19頁,
   https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/attach/pdf/panfu1-12.pdf
   (アクセス日2024年1月17日)
*4  農林水産省「日本の食料自給率」,2.食料自給率の推移,
   https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/012.html
   (アクセス日2024年1月17日)
*5  農林水産省「知ってる? 日本の食料事情 2022 ~食料自給率・食料自給力と食料安全保障~」,5頁,
   https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/attach/pdf/panfu1-12.pdf
   (アクセス日2024年1月17日)
*6  農林水産省(2023) 「特集 01数字で学ぶ「日本の食料」」『aff(あふ)』, 2月号,
   https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/2302/spe1_01.html#main_content
    (アクセス日2024年1月17日)
*7  農林水産省(2022)「日本の有機農業の取組面積について」,
   https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/yuuki/yukimenseki.pdf
   (アクセス日2024年1月17日)
*8  Paul Maeder, et al. (2002), Soil Fertility and Biodiversity in Organic Farming, Science, Vol 296, pp.1694-1697,
    https://www.science.org/doi/10.1126/science.1071148
   (アクセス日2024年1月17日)
*9  農林水産省(2023)「肥料をめぐる情勢」,4 化学肥料原料の輸入相手国、輸入量,
   https://www.maff.go.jp/j/seisan/sien/sizai/s_hiryo/attach/pdf/HiryouMegujiR5-5b.pdf
   (アクセス日2024年1月17日)
*10 農林水産省(2022)「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律に基づく肥料に係る安定供給確保支援法人の公募について」,
   https://www.maff.go.jp/j/supply/hozyo/nousan/221228_141-1.html
   (アクセス日2024年1月17日)
*11 農林水産省(2021)「みどりの食料システム戦略の策定について」,
   https://www.maff.go.jp/j/press/kanbo/kankyo/210512.html
   (アクセス日2024年1月17日)
*12 農林水産省(2022年5月17日)「武部農林水産副大臣がモロッコを訪問しました」,
   https://www.maff.go.jp/j/press/y_kokusai/kokkyo/220517.html
   (アクセス日2024年1月17日)
*13 農林水産省(2023)「食料・農業・農村をめぐる情勢の変化(備蓄、食品安全・食品表示、知的財産)」日本における穀物等の備蓄(備蓄水準とその考え方),3頁,
   https://www.maff.go.jp/kanto/kikaku/syokuryo_nougyo_nouson_kihonhou/attach/pdf/index-24.pdf
   (アクセス日2024年1月17日)
*14 農林水産省(2023)「米穀の需給及び価格の安定に関する基本指針」, 3-4頁,
   https://www.maff.go.jp/j/seisan/keikaku/beikoku_sisin/attach/pdf/index-10.pdf
   (アクセス日2024年1月17日)
*15 農林水産省(2023)「米穀の需給及び価格の安定に関する基本指針」参考統計表, 12頁
   https://www.maff.go.jp/j/seisan/keikaku/beikoku_sisin/attach/pdf/index-10.pdf
   (アクセス日2024年1月17日)
*16 農林水産省(2023)「麦の需給に関する見通し」,4頁,
   https://www.maff.go.jp/j/press/nousan/boeki/attach/pdf/230320-3.pdf
   (アクセス日2024年1月17日)
*17 農林水産省(2023)「肥料原料備蓄ガイドライン」, 3-4頁,
   https://www.maff.go.jp/j/seisan/sien/sizai/s_hiryo/attach/pdf/221228-32.pdf
   (アクセス日2024年1月17日)